「楽天経済圏の住人」という大きなのびしろ
ただ、誤算続きで迷走が続く中、わずかに希望も見えてきた。
総務省の有識者会議が昨秋、地下やビル内でもつながりやすい周波数帯の「プラチナバンド」の一部を、大手3社から楽天モバイルに5年程度で分けるよう求めたのだ。しかも、巨額の移行費用は3社が負担すべし、という。
実現すれば、最大の弱点だった「つながりにくさ」の解消になろう。
だが、3社の反発は激しく、実際に運用できるまでにはかなりの時間がかかりそうだ。新たな設備投資も生じるうえ、いきなりすべてのユーザーがつながりやすくなるわけではない。もとより、プラチナバンドの割り当てが顧客獲得に直結するかどうかは不透明だ。
そんな中、三木谷氏が「切り札」と期待するのが、楽天ポイントを軸にした楽天モバイルと楽天経済圏との相乗効果だ。
楽天市場や楽天カードなど70以上のサービスを展開する楽天経済圏は、さまざまなサービスを利用すればするほどポイントの還元率が高くなる仕組みになっている。このため、ポイントを有効活用したいスマホユーザーにとって、楽天モバイルに加入して「楽天経済圏の住人」になるメリットは大きい。楽天経済圏に囲い込むことができれば、スマホで支払う料金以上に、ユーザーの財布のひもが緩み、楽天グループ全体の売り上げ増につながる可能性も高まる。
楽天経済圏の月間アクティブユーザーは3900万人(22年10~12月)とされるが、このうち楽天モバイルの契約者は12%にも満たないだけに、のびしろは大きい。
大手3社の寡占状態に風穴を開けようとしている
楽天経済圏との連携は、もともと参入に際しての強い動機だったはずで、先行3社にはない武器となりうる。
楽天グループの再浮上は、楽天モバイルを立て直せるかどうかがカギになる。楽天モバイルのユーザーが楽天経済圏の住人として満足感を得られるようになれば、現在の苦境は大きく変わるかもしれない。「モバイル事業に乗り出したこと自体が戦略の失敗だった」と言われないためにも、今が正念場だ。
大手3社の寡占状態が続く携帯電話市場だが、そこに風穴を開けようとゼロからスタートした楽天モバイルのチャレンジは称賛に値する。楽天モバイルの参入によって、この市場に緊張状態が生まれ、値下げ競争の呼び水になったことは間違いない。
「格安スマホの旗手」が失速するようなことになれば、再び3強の寡占市場になり、世界有数の「通信料金が高い国」に逆戻りしかねない。それは、利用者にとって、もっとも不幸な事態だろう。
楽天グループならではの独自のアプローチで、この難局を乗り越えられるかどうか、注視したい。