防災や安全保障にも重大な脅威に
石破茂新首相が政権発足早々に衆議院を解散し総選挙に突入したが、近年の選挙で大きな問題となっているのが、ネット上で流布される「偽情報」の氾濫だ。民意を正確に反映せず、選挙の公正性を歪め、民主主義の根幹を揺るがす、深刻なインシデントとなっている。
偽情報の蔓延は、社会不安を高めるばかりでなく、石破茂政権が重視する防災や安全保障への重大な脅威にもなりかねない。
欧州に比べ日本の偽情報対策は遅れていると言われてきたが、ここにきて、総務省の有識者会議や自民党の調査会が相次いで、偽情報対策について本格的な提言を取りまとめ、ようやく本腰を入れ始めた。
衆院選にあたっては、危機感を高める総務省が、AIを使った偽動画や偽画像の拡散を懸念して、メタやXのSNS事業者やオープンAIなど14社に、異例ともいえる偽情報への適切な対応を要請している。
だが、石破首相は、所信表明で偽情報対策には触れずじまいで、その後も踏み込んだ発言はしていない。偽情報対策の実効性が見通せない中、本気度が問われている。
欧州中心に進む偽情報対策
偽情報は、かつてはフェイクニュースと呼ばれることもあったが、近年はそれだけにとどまらず、「あらゆる形態における、虚偽で、不正確で、あるいは誤解を招くような情報で、人を混乱させ惑わすなど公共に危害を与えるために意図的につくられた情報」と定義されている(ただし定義にはさまざまな見解がある)。
ただ、勘違いなどによる誤情報とは区別される。
偽情報がクローズアップされるようになったのは、2016年ころから。
米国の大統領選挙で「トランプ候補をローマ法王が支持」、イギリスのEU離脱選挙で「EUへの拠出金が週3億5000万ポンドに達する」など、一国の将来を左右する重大選挙で明らかな偽情報が飛び交い、選挙の結果に大きな影響を与えた。ロシアなど第三国からの発信が少なくなかったため、安全保障上からの観点からも新たな脅威として認識されるようになった。
こうした苦い経験を踏まえ、欧州を中心に、偽情報対策が真剣に講じられるようになった。