とはいえ、目の前に氾濫する偽情報の脅威を傍観しているわけにはいかないし、規制強化の国際的な潮流に取り残されることがあってはならない。
公共の利益を害するような偽情報を野放しにしておくようなことは断じて許されないと肝に銘じるべきだろう。
官民で加速する偽情報対策
偽情報対策は、官民で、さらに加速する動きを見せている。
総務省は、「検討会」の提言を受けて10月10日、新たな有識者会議を立ち上げ、法制度の整備に向けた議論を開始した。偽情報の蔓延状態を一刻も早く是正するため、とくに「違法な偽情報」に絞って、SNS事業者への規制を制度化する方針で、25年の通常国会に法案提出を目指している。
一方、富士通は10月16日、8つの大学や研究所と共同で、ネット上の偽情報の真偽を判定する世界初の「偽情報対策プラットフォーム」を2025年度末までに構築すると発表した。
共同研究に参加するのは、富士通のほか、国立情報学研究所、NEC、慶応大、東京科学大、東京大、会津大、名古屋工業大、大阪大の9者。AIが作成した「ディープフェイク」の検知や大規模言語モデル活用による情報の真偽判定など、それぞれ個別に研究してきた技術を持ち寄り、統合する取り組みだ。実現すれば、世界に先駆けて偽情報対策を実用できる技術を提供できることになるという。
また、報道各社は、ネット上の記事や広告に情報発信者を明示する「オリジネーター・プロファイル(OP)」という技術を、2025年の実用化を目指して開発を進めている。導入されれば、偽情報対策の有力な対抗手段になると期待されている。
偽情報対策に相当の予算を
日本では、欧米のように、社会全体が決定的影響を受けるような偽情報の洗礼に遭遇してこなかったせいか、偽情報に対する感度が鈍いとされてきた。
だからと言って、石破首相まで鈍いようでは困る。
情報の真偽を判別する技術の研究開発のために総務省が計上した25年度概算要求は20億円に過ぎない。この程度の額で、どこまで効果的な対策を取れるかは疑問だ。地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増するという大盤振る舞いを打ち上げたが、偽情報対策にも相当の予算を割くべきだろう。
読売新聞が10月14日に発表した世論調査では、ネットを通じて偽情報が広まることに「不安を感じる人」が89%にも達しており、国民の意識も少し変わってきたようにみえる。
偽情報を軽視してはならないし、このタイミングを逃してはならない。
石破政権は、偽情報がもたらす社会的影響の大きさに留意し、総務省や自民党が提言した偽情報対策の実効性をどのように担保するか、強烈な熱意と早急な対応が求められる。