契約獲得のために社員を総動員

契約獲得には、楽天グループの社員が総動員されている。

朝日新聞は2月21日朝刊で、楽天モバイルの新規契約を1人当たり5回線獲得する実質的な「ノルマ」の存在を指摘した。「紹介プログラム」と呼ばれ、社員一人ひとりに紹介コードが割り振られ、紹介された「特別なお客様」が契約すれば、その社員の実績としてカウントされる仕組みだ。

朝日新聞によれば、楽天モバイルの広報は「従業員向けに紹介プログラムを実施しているが、このプログラムに参加した従業員の人事評価に契約獲得の有無が影響することはない」と回答したという。

ノルマを達成できなければ人事考課に影響するとなったら、それこそブラック企業になってしまう。親戚や知人に頼み込んだり、名義を借りて自分で費用を負担する「自爆営業」はよくある話で、「人間関係が悪くなりかねない」という社員の悲鳴が聞こえてきそうだ。

切羽詰まった窮余の策は、全社を挙げて涙ぐましい努力が続けられたようだが、上から下まで難儀したとみえて、当初の期限までに目標は達成できず、締め切りは2月まで延長されたという。

「三大キャリア」に激安料金で勝負を挑んだが…

楽天モバイルの苦悩は、価格破壊路線が行き詰まったことが大きい。

20年春の参入時に、「データ利用無制限で月額2980円」という激安プランを掲げて一気に契約者を増やしたが、ほどなく誤算が生じた。

菅義偉・前政権が大手3社に通信料金の大幅値下げを迫った結果、21年春にNTTドコモ「ahamo(アハモ)」に続いて、KDDI「povo(ポヴォ)」、ソフトバンク「LINEMO(ラインモ)」と、月額3000円を切る格安プランが相次いで登場、料金面での優位性が崩れてしまったのだ。「官製値下げ」は、利用者には歓迎されたが、楽天モバイルとっては痛手となった。

そこで、安さが最大の売り物の楽天モバイルは「月間1ギガバイト(GB)まで無料」という「0円プラン」を導入し、勝負に出た。しかし、採算度外視の経営は長く続くはずもない。「ぶっちゃけ、ずっと0円で使い続けられても困る」(三木谷氏)と、わずか1年余りで「0円プラン」を廃止、軌道修正を余儀なくされた。

すると、2022年4月末には500万件(自社回線契約のみ)を超えていたユーザーが次々に解約し、22年11月末には445万件と50万件以上も減ってしまった。

ただ、最低料金を月額980円(税抜き)に再設定したこともあって、2022年10~12月期決算資料によると、1件当たりの収益(ARPU)は1805円まで上昇。それでも3社の半分程度にすぎない。当初、損益分岐点の契約者数は700万件としていたが、この数字では1000万件程度を確保しなければならないとみられる。