「恐怖のマネジメント」はもう通用しない
かつては多くの会社で、叱りによるマネジメントが行われていた。失敗した結果だけを見て「何やってるんだ!」「何とかしてこい!」と怒鳴るスパルタ教育が主流だった。
これには時代背景も大きく影響しているだろう。経済も企業も拡大し、人材の供給も豊富だった時代。叱り飛ばして「気合や根性」を入れるだけで、結果もついてきた時代。上司が叱り飛ばしたことで部下が辞めてしまっても、会社にとってはなんの痛痒もなかった。できない人を一生懸命育てるより、むしろ辞めてもらい、さっさと新しい人を雇ったほうが効率も良かったのである。
しかし、昔のように自己流で叱っていればいい時代は終わった。叱ることの基本セオリーも知らずに叱っていたら、部下は耳を貸さないし、成果も高まらない。
「自分の気に入ったやり方しか受け入れない」「ミスをしたときに、理由も聞かず頭ごなしに怒られた」「原因がこちらにないときに、理不尽な怒られ方をした」などの反発を招くだけだ。
人材の流動化が進んだいま、優秀な人材を社内にとどめておくためには、むやみに叱るマネジメントでは通用しない。
「部下の納得と共感を得ることのできる叱り」が求められているのである。
そのためには、ここまで見てきたように、「叱るべき相手を見極める」「叱りの4つのステップを押さえる」「自分自身のタイプを見極めて、自分の叱りを自己検証する」ことが必要になる。だが、それ以上に重要なのが、叱る本人自身のスタンスの問題である。
まず何よりも、「愛情を持って本気で叱ること」。自分の(組織の業績の)ためにではなく、相手のために叱る。特に、鬼タイプは、その点に注意する必要がある。「この部下を、是が非でもよい方向に変えるのだ」という強い信念を持つ必要がある。真剣さと愛情が感じられれば、相手も素直に聞き入れるものである。
そして、目先のことだけでなく、相手の将来を考えて叱ること。特に仏タイプの上司は、目先の調和を重視しやすい。その相手の10年後の成長のためにあえて叱ろう、という計算も重要である。