キーワードはあえて重複させる

口蹄疫問題では、感染拡大を防ぐために、感染源から半径10キロが「移動制限区域」に、さらに広い半径20キロが「搬出制限区域」に設定されました。番組では宮崎県の地図の上に丸い二重のリングの模型を載せて説明しようとしましたが、そのリングに10と20の数字が書かれていなかった。二重に制限区域があるという説明ならそれで事足りるけれど、このときのキーワードは「10キロ」「20キロ」という制限距離。数字が書かれていない模型ではそれがまったく伝わらない。

こちらが強調したいことは、必ず目で見ても強調されるようなものにしておかなければいけません。

最近のビジネスマンはプレゼンテーションのときに上手にパワーポイントで資料を作りますが、プレゼンで強調したいキーワードや数字が資料から抜けていることがときどきあります。

話が重複するから書かなくてもいいと思っている人もいるようですが、逆です。強調するためには重複させなければいけない。我々の業界でも「それはキャスターが話をするからいいんじゃないの」と言われることがありますが、そうではない。よりわかりやすくするためには、キャスターが話す内容とビジュアルを重複させて、耳から入る情報と見る情報、相乗効果を持たせるべきです。

以上のようなことを心掛けながら番組は進行して、最後にもう一度私がコメントして締めます。そのコメント原稿もあらかじめ自分で作りますが、エンディングで一番大事にしているのは「腑に落とす」ということ。

どういう結論であってもいいのですが、見ている人が腑に落ちないと、見終わった後にスッキリしない。すべての物事はスッキリ終わるわけではないし、必ずどこかに不満が残るものですが、視聴者に少なくとも「へぇ」と思わせたり、腑に落とそうとする姿勢が番組製作者側には必要だと思います。

要するに、わかってもらおうとして作っている、ということをわかってもらうことが大切。だからまだ結論が出せないとき、これ以上は憶測になるようなときは、無理に結論じみたことを言うより、「結論はまだわかりません」とか、「ここから先は私見ですが……」と正直に言ってしまったほうが、見ている人は納得してくれるような気がします。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 的野弘路=撮影)
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