「あがり症で人と面と向かって話すのが苦手な人間」が、日本最大の流通グループCEOとして君臨し、「話し手」としても、その上手さは財界で評判となっている。「話術だけではダメなんです」と語る鈴木氏にいま、モノを売り、人を説得する「話し方」の極意を聞いた。

国内最大流通グループ、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの鈴木敏文氏は矛盾する2つの顔を持っている。

一つは「あがり症で人見知り」という意外な顔だ。これは子どものころからで、中学受験や新聞社の入社試験でも、筆記試験は通っても、面接試験であがり症が頭をもたげ、不合格になった。

今でも、巨大企業のトップながら、初対面の人と話すときはあがってしまい、一対一で雑談をするのが苦手で、「30分も話しているとネタがなくなり、何を話していいかわからなくなってしまう」というから、不思議だ。それでいて、「話し方の名手」としての顔も持っている。社内外で多くの講演・講話をこなす。事前に原稿を用意せず、ぶっつけ本番で臨み、前置きせず、一気に本題に引き込む語り口には定評がある。

また、鈴木氏はセブン-イレブンの創業にしろ、セブン銀行の設立にしろ、新しい事業を始めるたびに周囲の猛反対にあってきた。業界の慣習を突破するため、数々の難交渉も重ねてきた。その都度相手を説得し、実現にこぎ着けた。それはなぜ可能だったのか。鈴木氏は断言する。

「話術が巧みでもうわべだけの“漫談”で終わったらそれまでです。成果に結びつけるために本当に必要なのは話術ではなく、相手の心理をつかんで話すこと」

あがり症でも、人見知りでも、話し下手でも成功できる。相手の心理をつかむ鈴木流の話し方とはどのようなものか。心理学経営の達人技を披瀝してもらおう。