セブン-イレブンを創業したころは、イトーヨーカ堂新規出店のたびに、地元商店街から反対運動が起こりました。その難交渉を妥結に持っていけたのも、話術ではなく、論法で対応したからです。

商店街の方々はスーパーが出店すれば、顧客が奪われ、売り上げが失われると不安を抱きます。現状の顧客の話をしていたら、妥結は不可能です。そこで、話のテーマを将来に向けました。総合スーパーには強い集客力があり、これまでにない大きな商圏から顧客を呼ぶことができます。それに対応して街も変わっていけば、共存共栄ができるのではないか。だから出店させてほしいと。これも不安や不満を期待に変える論法です。

サウスランド社がその後、経営不振に陥って救済を求めてきたとき、私はブランドへのダメージを回避するため、支援を決断しましたが、周囲は反対しました。失敗した場合の損失に不安を抱いたからです。目がそこに向いている限り、支援の意義をいかに説いても説得は困難です。

そこで私は投入金額を明示し、それ以上は一銭も使わないこと、仮に支援に失敗し、資金が無駄になっても本体の財務は揺るがないことを強調しました。不安心理をなくすことで了解を取ったのです。

相手がある一面を見て損失を恐れ、不満や不安を抱いているとき、話術が巧みな人でも説得は困難でしょう。別の一面に目を向けさせて、不満を期待へ、不安を安心へ逆転させる論法を考える。それが本当の説得力です。

※すべて雑誌掲載当時

(ジャーナリスト 勝見 明=インタビュー・構成 尾関裕士=撮影)
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