無理やり詰め込めば情感がなくなってしまう
【シンジ】その仕事を専門にしている人がいるんですか?
【監督】シリーズ構成だけをやっている人は基本的にはいません。脚本家のボスがシリーズ構成を担うことが多いです。監督自身が行うこともあります。
【ユーリ】にゃるほど。職種っていうより、誰かがやらなければならない作業ってことね。
【監督】たとえば僕が以前やった仕事を例に挙げると、マンガ原作1巻から11巻までを、105分のアニメスペシャルに収める仕事をしました。マンガのエピソードをすべて詰め込んでいたら、とても収まらない長さです。もし無理やり詰め込んだら、情感のない足早なダイジェスト版になってしまい、作品のムードをぶち壊し、ぜんぜん原作の魅力を伝えられないアニメになってしまう。だから、描くエピソードを厳選してシリーズ構成を行いました(『ONE PIECE エピソードオブ東の海(イーストブルー)』)。
【シンジ】原作の魅力とかポイントがわかっていないと、シリーズ構成は難しいんですね。
【監督】そのとおり。シリーズ構成もそうですが、原作の良さがどこなのか理解できていないと、すべての工程において「いい仕事」のしようがないから。
そのままアニメにしても視聴者には届かない
Q 原作マンガがあるなら脚本って何をするの?
【ユーリ】原作マンガのあるとき、脚本家って何をしてるの?
【監督】基本的には、マンガを見ながら、「状況説明」と「セリフ」と「アクション」をすべて書き起こしていく作業です。シリーズ構成が決まったら、何人かの脚本家が選ばれて、各話の担当になります。まずは、ざっくり話の内容を記したあらすじを作り、監督やプロデューサー、製作委員会のOKが出たら、シナリオ化していきます。
【監督】現在のシナリオは、20字×40行の1枚800字の体裁であることがほとんどです。17~18枚程度のシナリオで、ちょうどCMを除いた21分のテレビ番組になります。
【ユーリ】あーこれ! マンガのセリフそのままだからよくわかる!「……やっと見つけたぜ……、ウィル!」ってセリフがグッとくるんだよ?。でも、マンガを書き起こすだけなら、それこそ私にもできそう(笑)。
【監督】原作つきの脚本だと、ちょっと練習すればできるかもね。原作つきの脚本にクリエイティブな要素があるとすれば、たとえば、その話は1巻から2巻の真ん中までを21分で収めようとなったとして、そのまま書き起こすと視聴者に内容が伝わりづらいと思ったら、シーンの前後にセリフを書き足したりして補足することですね。ただし、おもしろさは原作の中にすでにあるから、原作のそのおもしろさをアニメで再現することが大切です。