実写映画にくらべてアニメ映画の監督はあまり知られていないことが多い。アニメ監督の大塚隆史さんは「宮崎駿監督、押井守監督、庵野秀明監督…一般に広く知られているアニメ監督は“作家タイプ”であることが多い。作品自体がどれだけ有名でも、商業アニメの監督は無名なケースが珍しくないが、これはアニメ作りの目的が違うからだ」という――。
※本稿は、大塚隆史、堀田孝之、フナヤマヤスアキ『アニメができるまで』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
絵コンテとマンガはまったく別物
Q 絵コンテって何?
【監督】これが『残光のキビカ』の絵コンテです。
【ユーリ】うおーーー、これがウワサの!
【シンジ】原作マンガでも名場面とされているところですね!
【ユーリ】うーん……でもマンガみたいにスラスラ読めない。
【監督】絵コンテはマンガではありませんから。
【ユーリ】でも、マンガみたいなものでしょ?
【監督】違う。
【ユーリ】え……冷たい。ツンデレ?
【監督】絵コンテは、カットごとに、どんなレイアウトの画面にするのか、どんな動きをするのか、どんなセリフを言うのか、どんな音楽や効果音が入るのか、どんなカメラワークをするのか……など、映像作りにおけるほとんどの情報が書き込まれている「アニメの設計図」です。
【シンジ】ほんとだ。絵以外にもいろんな情報が書き込まれている。
【監督】絵コンテを見れば、最終的にどんな映像になるかがほぼわかります。わかるようにしなければいけません。家や船を作るのには設計図が必要なように、アニメを作るのにも設計図が必要です。その設計図をもとに、アニメーターや美術さんなどの技術者が実際にアニメを組み立てていくわけです。
絵がうまければ作れるわけではない
【シンジ】監督、僕も練習で絵コンテを描いてみたのですが、どうでしょうか?
【監督】予習ですか、関心関心。君は?
【ユーリ】私は復習で勉強するタイプなの! 比較しないで! グレるよ!
【監督】この絵コンテはよく絵が描けていますが、絵コンテで大切なのは絵のうまさではなく、完成形の映像をイメージすることです。どうすれば視聴者の心に訴える映像になるか、考える必要があります。
【シンジ】どうすれば、人の心に訴える映像になるのでしょうか?
【監督】絵や動きやセリフで訴えたり、間を使って時間で訴えたり、音響効果で訴えたり……など、ありとあらゆる手段を盛り込んでいくのです。そのためには、アニメ制作におけるすべての制作工程に精通している必要があります。
これから紹介する「作画」や「撮影」「編集」「アフレコ」「ダビング」などすべてのセクションを経験して理解していないと、本当の絵コンテは描けません。絵コンテは、絵が描ければ作れるほど、甘いもんじゃないんです!
【シンジ】甘くみてました。
【ユーリ】やーいやーい。