同性愛について話すことを禁じる“反LGBT法”
【増田】オルバン首相はほかにも、「ハンガリーという国では、多様性を認める必要はない」と言い放ちました。LGBTなど性的少数者の権利を認める必要はない、とし、男の子同士が仲良くしている場面がある絵本を販売した書店に罰金が科せられるという事態になりました。
「この本には通常とは異なる表現がある」という表示がなかったための罰金、つまり「R18指定」のような表示がないのが違反だ、という理由だったのですが、昨年6月、子どもへの教育の場などで、同性愛や性転換に関わる情報を伝えることを禁じる新法(反LGBT法)が成立したことが影響しています。とはいえ、表立ってLGBTを批判したり、反LGBT法を適用したりすることもありませんでした。
その後、反LGBT法が改正されて、こうした内容の表現物(18歳未満向け)は禁止するという内容が盛り込まれました。ハンガリーは、基本的にカトリックの教えを重んじる国柄ということもありますが、これに対しても国民から強い反対の声は上がっていません。
【池上】国際社会の多様化推進の流れに、明らかに逆行しています。7月15日、欧州委員会は、この新法が性的少数者の基本的権利を侵害しているなどとして、EU司法裁判所に提訴すると発表しています。
【増田】ハンガリーの中でも、都市部か郊外や農村部かでかなり国民の感覚も違っている面はあると思います。また、「同性間の恋愛や、体の性と心の性が違う人たちをあえて否定もしないけれど、歓迎しろと言われるとそれは違う」というくらいの感覚の方が、郊外の、特に高齢者には多いのではないでしょうか。実際、オルバン首相が再選された国民議会選挙でも、野党が勝ったのはブダペストをはじめとした都市部の地域だけでした。
また、オルバン首相は行政区画の名前を、昔の呼び名に戻そうという政策も進めています。日本でいえば、現在の都道府県を藩や「武蔵国」「越後国」といった旧国名に戻そうというような運動です。国民は「何を言い出したんだろう、首相は」とあきれているようで、「昔に戻って、オルバン自身が王宮にでも入るつもりなのか」という批判も出てはいます。
しかしこうした時代錯誤的な発言や政策が決定的な支持率の低下につながっていないのは、やはり経済成長、もっと言えば国民生活の向上に関しては実現しているからではないでしょうか。ガソリン定額制をはじめ、国民生活への目配りも重要だと改めて思います。