これからの日本の政治はどうなるのか。ジャーナリストの鮫島浩さんは「石破首相は目標としていた『自公で過半数』を達成できず、少数与党に転落した。マスコミは石破政権の敗北と大きく報じているが、“本当の敗者”はもう一人いる」という――。
石破内閣発足1カ月を迎え、記者団の質問に答える石破茂首相=2024年11月1日午後、首相官邸
写真=時事通信フォト
石破内閣発足1カ月を迎え、記者団の質問に答える石破茂首相=2024年11月1日午後、首相官邸

「勝敗ライン」を棚上げした石破首相

自公与党は総選挙で惨敗し、15年ぶりに衆院で過半数(233議席)を割り込んだ。石破茂首相は自ら設定した「自公で過半数」の勝敗ラインを18議席も下回ったのに、投開票日の夜に早々と続投を宣言した。

非公認や無所属の候補をかき集めても過半数を回復できない大惨敗である。いったい「勝敗ライン」とは何だったのか。それを達成できなければ「敗北」を認めて「辞任」する線引きではないのか。そんなものはなかったかのようにやり過ごす姿勢は、あまりに醜い。

首相に就任したとたん、9月の自民党総裁選で訴えた主張を次々に覆した。衆院解散の時期も、金利の引き上げも、裏金議員の公認問題も、あっけなく前言を翻したのだ。石破首相の言葉の軽さを象徴する総仕上げが「勝敗ライン」の棚上げである。なりふり構わぬ「居座り」だ。

石破首相は安倍晋三元首相に疎まれ、干し上げられた。無役の非主流派暮らしが10年続き、この間に石破派も消滅した。それでも世論調査の「次の首相」でトップを走り続けてきたのは、「党内野党」の立場から正論を吐いてきたからだ。石破首相なら裏金問題で腐り切った自民党を浄化してくれるという期待感が、支持政党の垣根を越えて広がっていた。

豹変した言動に有権者は嫌気

石破首相はそれを見事に裏切った。裏金議員の大半を公認し、世論の期待は一気に萎んだ。総選挙最終盤、非公認とした者たちにも「裏公認料」として2000万円を支給していたことが発覚し、落胆は憤怒へ変わった。

この総理は信用できない――。自公惨敗の要因は、裏金問題に加え、石破首相がブレまくったことだろう。この先、石破首相が何を訴えても、コロコロまた変わるかもしれない。こねくり回した言葉の羅列がむなしく響くだけだ。「党内野党」として正論を吐いてきたのは仮の姿、実は権力欲を覆い隠していたとしか思えない豹変ぶりである。

読売新聞の世論調査によると、内閣支持率は解散目前の51%から総選挙直後は34%へ急落した。新内閣誕生のご祝儀相場は瞬く間に吹き飛んだ。この選挙戦を通じて石破首相が坂道を転がり落ちるように国民の信頼を失ったことは一目瞭然である。

9月の総裁選で首相を交代させ、裏金問題で悪化したイメージを刷新し、ただちに衆院解散を断行して総選挙を乗り切るという自民党の政権延命戦略は、完全に失敗に終わった。

石破首相退陣と自公政権崩壊の危機を救ったのは、野党だった。自公は過半数を割ったのに、野党連立政権は誕生せず、政権交代は実現しなかったのである。