「バカバカしいアイデアを回避できました!」

「ご家庭の皆さんは、今夜は安らかに休めます。私たちは、バカバカしいアイデアを回避することができました!」

ハンガリーのオルバン首相は5月30日、EU首脳会議の会場から出てくるや否や、フロアで待ち構えていたジャーナリストたちのカメラに向かってそう言うと、穏やかな笑みを見せた。あっぱれな首相である。

欧州(EU)理事会特別会合に参加するハンガリーのヴィクトール・オルバン首相=5月30日、ブリュッセル
写真=AFP/時事通信フォト
欧州(EU)理事会特別会合に参加するハンガリーのヴィクトール・オルバン首相=5月30日、ブリュッセル

この日、ブリュッセルでEUの首脳らは、5月初めからの懸案だった対ロシアの追加制裁を、ようやく軌道に乗せた。つまりEUは今年の終わりで、ロシアの石油を“ほぼ”全面的にボイコットする。なぜ、“ほぼ”かというと、ハンガリーをはじめ、一部の東欧の国が、事実上、ボイコットへの参加を免除されたからだ。

実は5月の初めにEUは、今年の10月までにロシアの石油を全面禁輸にし、12月までにガソリンやディーゼルなど加工品も止めるというボイコット案を策定したが、オルバン首相が1人、国内の経済に与える打撃が大きすぎるとして反対を貫いた。

EUでは、制裁は全会一致でないと決められない。そこでEUはハンガリーに対し、石油とその加工品それぞれの禁輸に、1年の猶予を与えようと提案した。しかし、オルバン首相は、「ロシア依存を解消するには少なくとも5年はかかる」としてその妥協案を一蹴したため、会議は決裂した。

同じロシア依存国のドイツも「卑劣」と批判

以来、水面下での交渉が続き、今回に至ったのだが、もし、今度もまとまらなければ、EUは世界に恥をさらす格好になる。そこで首脳たちは仕方なく面子のほうを取り、オルバン首相の主張を入れて譲歩した。その結果、制裁は、月の満ち欠けでいうなら満月ならず十三夜月ぐらいになってしまった。「ハンガリーが残り26カ国の首を絞めた(恐喝した)」と言われる所以ゆえんである。

ドイツのハーベック経済・気候保護相は会議後の記者会見で怒りに震えながら、「オルバンは、われわれが国民の幸せのためにやろうとしていることを取引だと思って」、「自分たちの利益のために“ruchlos”な賭けを打った」と罵った。ちなみに“ruchlos“というのは、不逞ふてい、極悪非道、卑劣というような意味だから、EUの一員である民主主義国の首脳に対して使う言葉ではない。また、この石油ボイコットがハーベック氏の言うように国民の幸せにつながるかどうかも、はなはだ疑わしい。

しかも、そもそもハーベック氏自身が、やはりドイツ経済が崩壊するという理由で天然ガスのボイコットに反対していたのは、つい最近のことだ。EUというのは、つまるところ、背広を着た人たちが自国の権益を守るために取っ組み合いをするボクシングのリングのようなところかもしれない。