約7割を占める海上輸送ルートは何とかなるが…

それはそうと、では、いったいこの日、EUで何が決まったのか?

ロシアの石油がヨーロッパに来るルートは、タンカーでの海上輸送が2本、陸のパイプラインが1本と、計3本ある。一つはバルト海、北海経由で、シベリアの石油をドイツ、オランダなど西ヨーロッパに運ぶ北ルート。もう一つは地中海、アドリア海経由で、主にカスピ海近辺の石油を南ヨーロッパに供給する南ルート。そして、3本目が陸上ルートで、シベリアから来たパイプラインが、ベラルーシ、ウクライナ経由で3本に分かれながら、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアなど東ヨーロッパにつながっている。

輸送量は、タンカー輸送が全体のほぼ7割で、陸上パイプライン経由が3割。ロシアからタンカーで入ってくる石油を減らすのは、それほど難しくない。新しい買い付け先さえ見つかれば、価格のほかは、すべてこれまで通りで済むからだ。だから、海からのロシア石油の輸入量はすでに大幅に減っている。ドイツでさえ、ほぼすべてを代替品に変えた。

港から製油所へ運ぶパイプラインがほとんどない

ところが、陸上パイプラインのほうは、そう簡単にはいかない。このパイプラインはドルジバ・パイプラインといって、当時のソ連が1960年初頭に、衛星国であった東欧諸国に石油を供給するために建設したものだ。海のないハンガリーやスロバキアにとって、ソ連の石油はまさにライフライン。ドルジバは「友好」という意味だそうだ。

当時の東ドイツも、当然、このパイプラインに繋がっていた。その東欧やドイツ(ベルリンをはじめ、旧東ドイツほぼ全域)が、ドルジバ・パイプラインに依存しているという状況は、実は今も変わらない。ロシアの石油が到着する旧東独のシュヴェートとロイナは、現在も精油と化学工業の町だ。

ドルジバ・パイプラインを放棄すると、特に旧東ドイツ地域にはその代替がない。海上輸送の石油に切り替えようにも、港から運んでくるパイプラインがほとんどない。そんなものは必要なかったからだ。また、30年前まで東西ドイツは違う世界だったため、それをつなぐパイプラインもほとんどない。

つまり、もし、今、ロシアの石油がなくなるとすれば、ガス火力か原発を新規に建設するとか、タンカーが着く港から新しいパイプラインを引っ張ってくるといった大ごとになる。もちろん、どちらも一朝一夕でできるものではないし、ガスもロシア産以外となると、やはり調達しにくいし、原発は絶対にNG。