「禁輸はハンガリー経済に対する原子爆弾だ」

困難な状況はハンガリーも同じだ。しかもハンガリーは石油の96%をロシアに依存している。オルバン首相が、「ロシアの石油の禁輸は、わが国の経済に対する原子爆弾だ」と反発したのも無理はない。だから、彼の猛烈な反対で、ドルジバ・パイプラインはボイコットの対象から外されることになった。しかも、いつまで外すかという期限さえ定められなかったのだから、オルバン首相の大勝利だったと言える。

ハンガリーのオルバン首相が1人で悪役を演じたのは、ひょっとすると役割分担なのかもしれないが、いずれにせよ、その恩恵にあずかれたのが、このパイプラインに依存しているスロバキア、チェコ、ブルガリア、ポーランド、ドイツ(旧東独地方)など。これらの国々が、オルバン首相に深く感謝していることは間違いない。

ただ、ドイツとポーランドは殊勝にも、EUの連帯のため、今年の終わりにはこの例外措置から抜けるという。ポーランドはグダニスク港を持ち、しかもそこから各地へのパイプラインもあるので、どうにかなるのだろう。しかし、難しいのはドイツだ。これまでドルジバ・パイプライン経由で入っていた石油は、ドイツがロシアから輸入していた石油全体の3分の1もの量に上る。

欧州連合旗
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製油所もロシアの息がかかっている

そして、その全量が、ポーランドに近い国境の町シュヴェートか、あるいは南のザクセン=アンハルト州のロイナの製油所のどちらかで精製されていた。つまり、将来の問題は、代替の石油を、どうやってここまで運んでくるかだ。シュヴェートとパイプラインで繋がっている港は、ポーランドのグダニスク港しかない。

しかも問題はまだある。シュヴェート製油所の筆頭株主が、ロシアの国営石油会社、ロスネフチなのだ。この株主が、ロシア以外の産地の原油を扱うことに賛成するはずはない。そこでドイツ政府は今、慌てて法律を改正し、エネルギー供給を安定させるためには、エネルギー関連企業を国営化できるようにするつもりだという。こんなことをロシアがしたら、おそらく大騒ぎだろう。

ただ、本稿で私が本当に書きたかったことは、ここからだ。