「自国の利益第一」が政策のモットー

【増田】この原油価格に上限を設けることを決めたのが、オルバン・ヴィクトル首相(59歳)です。1998年に初めて首相となり、2002年にいったん下野していますが、2010年に再選。その後は2022年まで連続4回の勝利を重ね、首相在任は通算で17年目という長期政権を敷いています。

トランプ前大統領自身が手法をまねたとされているほどで、「ハンガリーのトランプ」などと言われています。実際、トランプ氏はオルバン首相の強硬な移民政策を称賛しています。ハンガリーは2015年に中東や北アフリカから移民・難民がヨーロッパに押し寄せた時には真っ先に受け入れを拒否したんです。

EUと足並みをそろえてロシアに対する制裁に参加するとはしながらも、自国の利益はしっかり守ることを第一としているのがハンガリーのスタンスです。私は今年の3月にもハンガリーへ取材に行きましたが、4月3日に行われた国民議会選挙でも、元々行ってきたロシアからの天然ガスや原油の輸入をやめるか否かも争点になっていました。

4月3日に行われたハンガリー議会選挙で、野党連合の統一首相候補だったマルキザイ氏に増田氏が取材。
写真提供=増田ユリヤ
4月3日に行われたハンガリー議会選挙で、野党連合の統一首相候補だったマルキザイ氏に増田氏が取材。

当初はEUに対して「制裁に参加します」と、ある意味「いい顔」を見せながらも、エネルギー制裁には反発し、オルバン首相自ら国民に「安心せよ」とFacebookで直接呼びかけていました。ハンガリーは天然ガスと原油のほとんどをロシアに依存していますから、ロシアからの輸入を止めれば経済的な打撃が避けられないというのです。親ロ派とも言われてきたオルバン首相でしたが、ウクライナ有事があっても選挙は圧勝。

「オルバンは弱者の気持ちを分かっている」

【増田】ハンガリーはウクライナと隣接しているため、戦火を逃れてきたウクライナ難民を多く受け入れてもいますが、一方で6月末に取材に訪れた際には、ロシアによる侵略そのものに対する関心は薄れてきているような印象でした。報道も減ってきていますし、やはり関心があるのはガソリンの高騰や日々の生活など「自分たちの身の回りのこと」。取材中も、出てくるのは「オルバンはうまくやっている」という評価の声でした。

首相として5期目ともなれば、選挙を経ているとはいっても「独裁ではないか」という批判が出てもおかしくないところ、ハンガリーの少なくない人たちはむしろ「オルバンはエリートが理想を語っているのとは違う、われわれ生活者、弱者の気持ちを分かってくれている」と評価しているのです。

実際、社会福祉は充実しています。例えばアレルギーのある子供には、保育所での特別な食事も、医療費も、すべて無料になるんだそうです。もちろん批判はありますが、子育て世代が暮らしやすいような施策は打っている。4人以上の子どもを産んだ女性は、一生、所得税を免除する「生涯免除」を導入したり。抑えるところは抑えているので「うまくやっている」という評価になるのでしょう。