私がイェール大学で日本経済を教えるとき、アメリカ社会・経済のあり方が唯一であると信じている学生の偏見を解くため、『風土』の英訳を必読書に課した。経済学の授業としては型破りではあっても、他地域の経済・社会の違いを理解する基礎にはなったと思う。

個性の抑圧を和らげてはどうか

というわけで、私がいつも批判的に見ている日本人の協調性・同調性や個性を抑圧する慣習も、自然環境の影響があることがわかる。

高度成長期における日本の経済成長は、電気製品や自動車の製品開発・大量生産によるところが大きい。「カイシャ(会社)」は世界共通語になったが、実は日本の会社組織が伝統的な農耕社会の延長であることを示していた。「モノづくり」の日本は、従業員が会社に集まり、時には寝食、コンパ、運動会まで一緒にしようとする傾向が強かった。上役とレストランに行く会社員は、上役と同じものを注文することが今も少なくないと思うが、よく日本の風習を示していると思う。

しかし、近ごろは日本でも、ファミリーレストランやホテルのビュッフェでは、卵料理でも種類を選択できるようになりつつあって、変化が起こっている。もちろん和食の朝食では、種類が選べなくても、料理人が工夫してつくってくれた目玉焼きを堪能するのもいい。一方で、アメリカのように焼き方を選べるのも個人としてはメリットがある。どちらがいいかというのではない。身近な料理の調理法ひとつとっても、日米の社会の違いを感じることができるのだ。

ただ、日本社会は今や農耕社会ではないことは言うまでもない。1人でもパソコンで仕事できるし、製造業もサービス業も全員一律に働く同調性の必要がなくなり、少しずつ多様性が認められ始めている。「伝統であるから」という理由だけで、一律な働き方や生活を続けていたら、同調圧力を感じて息苦しさを感じるようになってしまう。せっかく生まれてきた一回きりの人生だから、自分だけが持つ個性を生かす人生を十分に楽しむことを考え始めてはいかがだろうか。

(撮影=石橋素幸 写真=PIXTA)
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