親の役目は子供を見守り問いかけるだけでいい
【高濱】子供に親の価値観を押し付けず、子供の感情やストーリーに耳を傾けてやることは大事ですね。
【中竹】感情を問うことが大事ですよね。「今どう思っているのか」と感情を問われて言語化することで、初めて「自分はこう思っていたんだ」と認識するわけです。経験しただけでは認識していないんです。そして感情の次のステップとして聞きたいのは「これからどうしたいか」。
【高濱】親はつい先回りしがちですよね。たとえばスポーツの試合で負けたときに、「負けて悔しかったでしょ。だからもっと練習を増やさなきゃね」など、勝手に子供の感情を口にして、これからどうするかも先回りしてしまう(笑)。案外、子供の本音としては、「負けたけど、今日はいいプレーができて嬉しかった」「調子が上向きになってきた気がする」とポジティブに捉えていることもあるかもしれませんね。
【中竹】子供本人が自分を振り返ることに意味があると思います。子供だから言うことが変わるし、ごまかしたり、うそをついたりすることだってあるでしょう。でもそのときは「うそつかない!」と怒ったり、否定したりせずに、「あれ? 前回こんなふうに言ってたけど、考えが変わったんだね」って軽く突っ込んでみる程度でいいんです。そうすると子供は「気づかなかったけど、自分に都合よく言っちゃったのかも」とか「なんでバレちゃうのかな」と考えるきっかけになります。
【高濱】親の役目は、そうやって子供に問いかけたり、観察したりするだけでいい。チームスポーツや合唱をやったりする中で、友達とうまくいかないこと、失敗などがあるでしょう。そんなときは子供が伸びるチャンスです。子供が困っているときに、「転ばぬ先の杖」で答えを先回りして差し出してしまうのは、子供の将来にとって一番残酷な仕打ちです。
【中竹】そうそう。困難にぶちあたったときこそ人は成長しますね。親は忙しいから、あれしなさい、これしなさいと細かく指示したほうが楽で、子育ても親中心に考えてしまうかもしれません。しかし子供のことを親中心で考えてしまうのはおかしなこと。そうではなく、子供を中心に置いて、親は先生などと同じように子供のサポートをするチームの一員だと思えばいい。スポーツコーチングには、指導者中心にする「コーチセンタード」ではなく、選手を主役にする「プレーヤーセンタード」にしようという考え方があるのですが、家庭でも「親センタード」でなく「子供センタード」で考えるといいですね。
なぜ、糸井重里と農学部出身の経営者はコミュ力が高いのか
【高濱】「子供センタード」は、わかりやすいですね。子供に指示や命令ばかりしていると、子供は親の評価ばかり気にするようになってしまいます。授業参観で親の顔を見てくるような子はちょっと危ない……。ところで中竹さんは、これまでコミュニケーション力が高いと感じられた方はいますか?
【中竹】糸井重里さんです。ラグビーのにわかファンを自認して、「にわかファン」ブームをつくってくださった縁で、仕事で何度かご一緒したんですけれど、偉ぶったり、功績を自慢したりすることがない。自分らしさがありながら、利他的な人だなと思います。学生向けの講演で、糸井さんと私が「自分の軸をつくろう」という話をした後、学生から「お二人の大切にしている軸はなんですか?」という質問が出ました。そのとき、あの柔和な糸井さんが「ここはそれを君たち自身が考える場であって、僕のそんな話を聞いても君たちには何の役にも立たない。だから僕は答えない」と毅然とおっしゃった。学生にとってはきつい言葉だったと思うのですが、自分と向き合えというメッセージなんですね。初めて会った学生に本音を言うところも、相手のことを考えているなと思いました。
【高濱】彼らは正解が欲しかったんでしょうね。僕が注目しているのは、農学部出身者。僕も農学部出身なので手前みそではありますが(笑)、マネーフォワードの辻庸介さん、ユーグレナの出雲充さん、ジーンクエストの高橋祥子さん、アストロスケールの岡田光信さんをはじめ、近年、活躍している若手起業家には、農学部出身者が多いんです。農学部は生態系という正解のない世界を扱っているせいか、社長となった今も自分の夢を追っていて、権威的でなくすごく付き合いやすい。
【中竹】そういう方たちは、周りの評価やお金、地位といったことには興味がなく、好きなことにひたむきですよね。
【高濱】そうなんですよ。謙虚さと柔軟さが身についていて気さくです。
【中竹】大人の背中は子供のかがみになります。これを読んでいる親こそ謙虚さや人への感謝をもう一度意識してみたらどうでしょう。急に利他の心は身につきませんから、まずは自分の感情と向き合うことでしょうね。