「ボールを持たない人」がどんな動きをするか
【中竹】そもそも自分が完璧だと思っている人はラグビーには少ない(笑)。完璧だと思っている人はサッカーや野球に行っちゃいますね。みんな何かしら弱点を抱えていて、だからこそお互いの足りないところをみんなで自然に補い合ったから、日本代表がチームとしてうまくいったんだと思っています。スポーツでも仕事でもチームで何かを成し遂げるときは、リーダーシップだけではなく、メンバーそれぞれが、持っている力をうまく生かしながら目的を達成しようとする“フォロワーシップ”が大事です。
【高濱】新型コロナウイルス感染拡大のような危機が起き、何が正解かわからない手探りの中、一人一人が協力して新しい課題に向かっていかなきゃいけない時代です。教育でもビジネスの世界でも、リーダーシップの育成が急務だっていわれているけれど、それこそ「ONETEAM」で戦うにはリーダーだけじゃなく、リーダーを支えるメンバーがどんな行動をするのか、フォロワーの存在も大事ですね。
【中竹】ボールを持っている人だけではなく、ボールを持たない人がフィールド上でどんな動きをするかを考えることも、ラグビーでは重要です。
【高濱】そのためにはフィールド上でいかにチームメートとコミュニケーションをうまくとれるかが鍵になりますね。
【中竹】はい。ただ、それを試合や練習中のフィールド上だけで実現しようとするのは無理なんです。練習前のロッカールームの時間、ストレッチ、食事、移動の時間などフィールド外である“オフ・ザ・フィールド”でもコミュニケーションをとっていることが非常に大事です。話題はなんでもよく、たわいもない雑談はとてもいいですね。理由は簡単で、普段、自然体で話せている仲間でないと、試合中にコミュニケーションをうまくとるというのは難しいからです。
「オフ・ザ・フィールド」のコミュニケーションが大事
【高濱】それは家庭でも同じですね。親子も夫婦も普段から話をしていないと、いざというとき大事な話はできない。日本代表のヘッドコーチのジェイミー・ジョセフも、オフ・ザ・フィールドのコミュニケーションを大事にしていたんですか?
【中竹】大事にしていましたね。ジェイミーは、チームを“ファミリー”だと言っていました。日本代表ってやることがいっぱいあって、時間が足りないんですよ。そんな中でも、合宿所のラウンジや食堂で過ごす時間を、家のリビングのようにリラックスできる時間として、あえてつくっていました。僕らはファミリーだから、ここは安心して悩みを言い合える場所だよと。
【高濱】今の若い子たちって、そういう場所でもすぐにスマホを見ちゃうでしょ。もうスマホが体の一部になってるってくらい(笑)。
【中竹】それは頭の痛い問題ですよね。だから私がヘッドコーチをしていたときは、食堂やミーティングルームなど、みんなが集まる場所、いわゆる「チームエリア」と呼んでいたところではスマホ禁止にしていました。今は、お互いの顔を見て話そうと。それに、だいたいチームメートや同じ大学出身同士、同じポジション同士とかでつるんじゃうんですよね。せっかくいつもと違うメンバーで集まったんだから、食堂でご飯を食べるときは毎回別のメンバーと食べようと提案したり、部屋割りにも配慮したりして、できるだけいろんなメンバー同士が交流できる機会をつくっていました。たわいのない会話ばかりなんですけれど、たまに戦術の話が出たりする。そんな雰囲気になっているチームはうまくいくんです。