今春、史上2人目の東京大学出身のプロ棋士となった谷合廣紀四段(26歳)は、東京大学大学院でAI研究をする大学院生でもある。これまでの人生で将棋と勉強をどのように両立させてきたのか。谷合さんに聞いた——。

※本稿は、『プレジデントFamily2020秋号』の記事の一部を再編集したものです。

東大生棋士にしてAI研究者の谷合 廣紀さん
撮影=森本真哉
東大生棋士にしてAI研究者の谷合 廣紀さん

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2020年の4月に晴れてプロ入りした将棋棋士の谷合廣紀(たにあい・ひろき)さん(26)は、東京大学大学院の博士課程に在籍する現役の大学院生でもあり、AI(人工知能)を使った研究を行っている。

「たとえば、自動車を運転している人間の様子がおかしくなったら、それを察知したコンピュータが人間の代わりに車を止めるといった自動運転技術や、路上に人がいることを検知する画像認識技術の研究などを行っています。自動運転技術や画像認識技術はまだまだこれから進んでいく分野なので面白みを感じています」

どちらかに専念することなく、棋士としての活動をしながら、今後も研究を続けるつもりだ。博士課程修了後は企業の研究所などで働きたいと考えているという。将棋棋士とAI研究者、二足のわらじをどちらも脱ぐつもりはない。

そんな谷合さんは、これまでの人生で将棋と勉強をどのように両立させてきたのか。棋士と学業と、二つの大きな目標を実現させた集中術を聞いた。

集中術その1 「好きなことにはとことんハマる」

谷合さんは東京の都心で一人っ子として生まれ育った。

「興味のあることを見つけてハマったら、飽きるまでずっとそればかりやっているというような子供でした。逆に、子供の頃から、やりたくないことはやらないタイプでしたね」

小学校に入ってまずハマったのはピアノだ。自宅にあったピアノの弾き方を父から教わり、ピアノ教室にも通い始めた。1日に5時間も弾き続けることもあったという。いまやショパンやドビュッシーを弾きこなす腕前だ。ピアノ教室通いは細々と続け、6歳から26歳まで約20年間にもわたる。

同じ頃、アマチュア有段者である祖父から教わった将棋にもハマった。祖父の家へ遊びに行くたびに盤に向かい合い、将棋の面白さに夢中になったという。

そんな谷合さんの様子を見た母が、東京・千駄ヶ谷にある将棋会館に連れて行ってくれた。日本将棋連盟の本部が入る建物で、一般の人向けに教室などが開かれている。

「将棋会館に通って同じくらいの年齢の子たちと競い合い、だんだん力をつけていったような気がします」

そこから将棋一筋かと思いきや、小学4年生から始めた公文式学習で、今度は算数にハマる。

「そのころ母が公文式教室の先生を始め、放課後の週2回は母の教室で過ごすことが多かったんです。どんどん進み6年生のときに高校で習う数学の範囲まで終わらせていました。もともと算数や理科が好きで得意教科だったのですが、それまで特別な勉強をしていたわけではありません」

公文式は計算問題が中心とはいえ、2年かからず高校数学まで終わらせしまったというから、驚異のスピードだ。

中学は、将棋に卓越した能力がある子向けの特別枠がある都立中高一貫の白鴎高校附属中学を受験するものの残念な結果となり、私立中高一貫の男子校・獨協に進学。中学では数学の勉強にのめりこんだ。

「高校の数学の教科書を先生に借りて、中学の段階で高校数学の勉強を一人でしていました」

幼い頃、母のすすめで水泳や体操、英会話や子供劇団などに通ったこともあったが、あまり長続きしなかった。夢中になったピアノと将棋と算数は、いずれも好きだから、やっていて楽しいからやり続けているのだという。

「ピアノは譜面通りに弾くのもいいけれど、即興演奏するのが楽しい。クリエーティブな面白さがありますね。数学の楽しさは、どんどん新しいことを知れること。たとえば、三平方の定理を学んだとき、すごく感動したのを覚えています。こんな感動がこの先も待っているんだと、新しい世界の扉が開けていく喜びを感じていました。そして将棋の楽しさは、相手に勝つこと。負けるとやはり悔しい。勝つのが“楽しい”から、いまも将棋を指し続けているんです」

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