友達とぶつかっちゃう子は自分のことを知ろう

【高濱】花まる学習会では野外体験といって山や川に行き、グループに分かれて活動するイベントがあります。友達同士は一緒のグループにはしません。知り合いで固まって、ほかの子とあまり交流しないから、グループづくりの段階でバラバラにしちゃう。似ていますね。

中竹竜二さん日本ラグビーフットボール協会理事
中竹竜二さん日本ラグビーフットボール協会理事(撮影=キッチンミノル)

【中竹】私が素晴らしいと思うのはそうしたプログラムの中で、子供たちに人の中でもまれる経験をさせるところです。知らない子同士が慣れない場所で活動するときは、うまくいかないことがありますよね。うまくいかない中で、こうすると人は怒るんだなとか、こういうことをされると腹が立つんだなとか、失敗しながら成長していく。このプロセスは、成長に欠かせないですね。

【高濱】子供の頃に、深刻にならない程度の「痛い目」にあう経験が必要なんです。「痛い目にあう」→「乗り越える」という繰り返しが折れない心をつくっていきます。大人になってからノウハウとして習っても間に合わない。それは子供のうちに、戦ったり、言い争ったりする中で、肌感覚で身につけていくことなんです。

【中竹】子供が人とうまくやっていく力を身につけるのって、ヒトの進化の過程と似ている気がします。猿は自分の存在を認識していないけれど、進化の過程で自我に気づき、やがて他者の存在を知り、他者に自分がどう評価されるかを意識するようになります。コミュニケーション力を育てるのも同じように段階がある。まずは自分を知り、そして他者を意識し、関わりを積み重ねるうちに、他者が自分とは違う感情を持っていることに気がつくという。

【高濱】花まる学習会をつくったのも、子供時代に人と関わる経験がないまま大人になって、人間関係がうまくいかずに苦しんでいる人が多いと感じたからです。たとえば、会社の人間関係につまずいて、会社を辞めちゃうような人が多いなというのは30年以上前から感じていました。

「得意な」プレーではなく「好きな」プレーは何か

【中竹】子供にコミュニケーション力をつけさせようと、段階をすっ飛ばして表面的なノウハウだけ身につけさせようとしてもうまくいかない。

【高濱】まずは自分を知るというのは本当に大切なプロセスです。現実には、自分が何をやりたいかを言えない人がたくさんいて、無意識に外部の評価に影響されてしまう。たとえば社会的にいいとされている会社や偏差値が高い学校に入るのがいいというのは、自分の価値観ではなく外の価値観。外の価値観に縛られてしまうと、自分が何をやりたいのかわからなくなってしまう。いい会社に入ってもそこで何をしていいのかわからないという人がその例でしょう。

【中竹】私はミーティングで選手に、「好きな」プレーを聞くんです。「得意な」プレーは周りから評価されているから本人もよくわかっているけど、それとは関係なしに、「自分がワクワクするプレー、嬉しくてニヤニヤしてしまうプレーって何?」って。日本代表に選ばれるような選手でも、最初はこれが語れません。でも徐々に語れるようになってくると、攻撃的なことは嫌がりそうな選手が、実はタックル好きとか、自分でボールを持って走るのが好きそうなタイプの選手が、自分に敵が接近したときにボールを味方にパスする瞬間が好きでたまらないとか、意外な答えが返ってくることがあります。

【高濱】自分の本当の好き嫌いが言えないと、相手の気持ちなんてわかるわけがないということですね。僕も「心」はコミュニケーションのキーワードだと思っています。「好き」が言い合えると、人間ってそれに向かって動きだせるし、お互いに助け合えますから。

【中竹】同じ試合をしても、ある選手は「悔しい」と感じ、別の選手は「嬉しい」と感じることがあります。その理由を聞いてみると、ずっとけがに苦しんできたけれど、やっとゲームの終盤でリザーブとして10分間だけでも出ることができて嬉しかったんだとか、それぞれにストーリーがあるわけです。感情と、その背景にあるストーリーをお互いに共有できてこそ、それぞれをリスペクトし合いながらひとつのチームになれるのだと思います。