昨今の教育界のキーワードは「探究的な学び」。生徒自ら課題を設定し、情報を収集して、整理・分析し、まとめて表現する学習活動だ。親世代にはなかった新しい“学び方”だが、家で親にできることは何なのか。探究型の教育の第一人者、花まる学習会の高濱正伸さんと、来年開校のFC今治高等学校で学園長を務める元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが語り合った――。(後編/全2回)

※本稿は、『プレジデントFamily2023秋号』の一部を再編集したものです。

野外体験で生きる力を伸ばしたい

前編から続く)

【岡田】僕は41歳の時、ウズベキスタン戦(1997年のサッカー・フランスワールドカップ最終予選)でいきなり日本代表の監督になったんです。それまではコーチで、監督なんてやったことがなかったのでものすごいプレッシャーを感じましたし、何よりサッカーファンはじめ関係者の間でも、「岡田で大丈夫なのか」という声が大きかった。当時は電話帳に電話番号が載っていたので、家に脅迫電話がガンガンかかってきて、自宅の前にパトカーが24時間待機しているというとんでもない状況でウズベキスタン戦を戦ったんです(結果は1対1のドロー)。

岡田武史さん
岡田武史さん(撮影=市来朋久)

その後、マレーシアのジョホールバルでイランとの最終戦があったのですが、かみさんに「俺、明日のイラン戦に負けたら日本に帰れない」と話しているうちに、いや、明日突然、名将になれと言われてもなれないよな、今の自分を100%出すことしかできないよな、それで負けたら「国民のみなさん、申し訳ございません」と謝るしかない。そもそも俺を監督にしたのは日本サッカー協会の会長だから負けても俺のせいじゃないよなって、本気でそう思ったんです。その瞬間から、怖いものがなくなって、完全に開き直ることができました(結果は3対2で勝利し、日本代表初の本選出場を果たす)。

ちょうどその時期に筑波大学の村上和雄先生(分子生物学者)にお会いして、「遺伝子にスイッチが入る」という話を伺う機会があったのです。「人間の遺伝子には百科事典3200冊分の情報が入っているけれど、そのほとんどは普段は眠っている。何らかの刺激を受けることでスイッチが入り、大きな力を発揮することができる」という話です。まさに、僕は41歳にして遺伝子にスイッチが入って、そこからガラリと人生が変わり始めたんです。

監督時代のそんな経験もあって、FC今治(来年4月に愛媛県の今治市で開校するFC今治高等学校。岡田さんは学園長に就任)では、「しまなみ野外学校」という事業もしています。

【高濱】何歳ぐらいが対象ですか。

【岡田】小学生から大人まで年齢別にいくつかのプログラムを用意しています。日帰りのもありますし、3〜10日程度のキャンプもあります。われわれ日本人は一生懸命になって、便利で快適で安全な社会をつくってきたわけですけれど、こんなに守られていていいのかなという思いが僕にはあるんです。こんなに守られた状態で、いったいいつ遺伝子にスイッチが入るのかと。

【高濱】まったく同感です。

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