岡田武史「FC今治高校は生徒を“待つ”んだ」

【高濱】低学年までに自己肯定感を高めておくことが必須ですね。高学年になるとコンプレックスだとかいろいろ出てきて難しくなるから。まだ心も脳も柔軟な時期に、世界って楽しい、遊ぶのって面白い、やればできるじゃん、っていう体験をさせてやりたい。それには、家と母親が大事だと思うんです。外で嫌な目に遭っても家に帰って「お母さーん」って言えば受け止めてもらえる環境。失敗しても認めてもらえる愛ですよ。無条件に「そのままの君がかわいい」と抱きしめられる愛。消しゴムのカスを集めているわが子もいとおしいと思えるのが愛なんです。

親は教育法なんかを仕入れてきて、「ほかの子はできるんだから」と一生懸命、型にはめようとするわけですが、子供が一番大切にしなければならないのは、岡田さんがリフティングを1回余計にできて嬉しかったというような原初的な体験なんです。その延長線上に好きなことをとことんやり抜く探究的な人生はあるわけだから、むしろ親は子供がそれを見失わないようにしてやらなくちゃいけない。

【岡田】僕がFC今治高校の先生たちに言っているのは、「うちは待つんだ」ということ。やる気がないように見える子ややりたいことがない子がいたら、待つと。手は差し伸べるけれども、こちらからやらせることはしない。それでもやりたいことが出てこなかったら、「どうしたいの?」と聞いてやってくれと。それでもまだ何も出てこなかったら、選択肢を提示して好きな科目、好きなやり方を選ばせてやってくれと。やらされているうちは、何事も身につかないからです。

岡田武史さん
撮影=市来朋久

【高濱】やらされていることは面白くないですもんね。選ばせる、自分で決めさせるってすごく大切なことだと思います。

たとえば小学生に3冊の本を見せて、「どの本を読む?」って1冊選ばせるんです。そうすると、まだ読んでもいないのに、その本をちょっと好きになるんですよ。自分で選ぶと好きになってしまう。少し難しい言い方をすると、選んだ本に対して心が固着するんです。

そして、固着することがやり抜くということにつながっていく。

ですから、先ほど言った「深めていく心の構え」をつくるには、親がいいと思ったことをやらせようとするのではなく、子供に選ばせる、子供に決めさせることがすごく大切ですね。小さい頃は、泥団子を作りたいと言ったら、一日中、泥団子を作らせておけばいいんです。

ただし、高学年以上になったら、家の外で憧れの大人や先輩に出会うことが必要だと思います。じゃあ、どうしたら出会えるのか、運もありますが、日本には部活という場があるんですね。部活の地域移行が話題になっていますが、別に教師がやらなくても、部活の必要性は絶対的にあると僕は思いますね。

【岡田】僕も学校では部活のサッカーしかやっていませんでしたね。こういう練習をしたらうまくなるんじゃないかとか、強い学校の練習をみんなで覗きに行ったりとか……。

【高濱】まさに、部活ってプロジェクトなんですよ。自分でサッカーをやるって決めたわけだし、たとえ補欠になったってサッカーをやめたくなければやり抜くわけだし、先輩やら同期やらの人間関係が悪化したらどうやって回復するかを自分で考えなければならない。モヤモヤや葛藤だらけというところが、人間力を磨くうえで一番いいんです。尊敬できる先輩や生涯の恩師に出会える場でもある。

部活は自分で選んで、自分で決めてやることだからこそいい。そこが、すごく重要なポイントだと思います。そして、たくさん失敗させることですよ。自分で決めたことなら、失敗してもそこから多くを学びます。まさにそれが探究ですから。

『プレジデントFamily2023秋号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023秋号』(プレジデント社)

【岡田】部活に入ったら、親は口を出さない、というのも大事ですね。指導者や仲間に任せて、放っておけばいい。僕は忙しくて家にほとんどいなかったから、むしろそれが良かったのかもしれません。その分、かみさんが苦労したのかもしれませんが(笑)。

【高濱】少子化で子供の数が減って、親が子供に構いすぎてしまう。僕は父親だけでなく、母親も外とのつながりをどんどん増やしていくべきだと思います。「○○さん、子供に構いすぎよ。子供なんて放っておけば勝手に育つのよ」なんて言ってくれる人を、周囲にたくさんつくるべきなんですよ。

【岡田】そう言われても放っておけないのがまた、親でもあるんですけれどね(笑)。

(構成=山田清機)
【関連記事】
【前編】「消しゴムのカスを缶いっぱい集める息子は頭がおかしい」不安顔の母親に教育者が「むしろ有望」と太鼓判のワケ
「お金持ちだからではない」頭のいい子が育つ家庭に共通する"幼児期のある習慣"
そして中1の娘は自室にこもるようになった…父親が言い放った「中学生女子に絶対NG」のフレーズとは
「精神科医が見ればすぐにわかる」"毒親"ぶりが表れる診察室での"ある様子"
児童ポルノサイトにわが子の写真が…インスタに160万件ある「#運動会」動画が危険な理由