日本企業が「1980年代の栄光」を取り戻すにはどうすればいいのか。早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授は「技術者が技術的に正しいことを言うだけではビジネスにならない。そのことを企業も政府も理解するべきだ」という――。

※本稿は、長内厚『半導体逆転戦略』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

東京
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過去の成功体験と残念な歴史

日本企業あるいは日本社会が、これまでなぜ技術でトップを取ることにこだわり続けてきたのか。半導体やエレクトロニクス産業をなぜビジネスとして捉えきれなかったのか。そこには、エレクトロニクス全般に言える過去の成功体験と、日本の半導体が歩んできた残念な歴史が関係していると考えます。

さらに元をたどると、学校教育の課程、カリキュラムもしくはシステムに原因が求められるかもしれません。日本では、高校の段階ですでに理系と文系に分けたカリキュラムが取られることが多くあります。そしてそのまま理系と文系に分かれて大学の学部に進み、特別な事情がなければそのまま卒業します。

理系と文系に分けられることを問題視しているわけではなく、理系学部では経営や経済を学ぶこともないだろうし、文系学部で技術などを学ぶことも一切ない、ということを言いたいのです。いわば、ガチガチの理系頭、文系頭を持って今度は会社に入ることになり、会社でも技術系と事務系とに分けられます。

日本のメーカーが抱える「最大の問題」

こう見てくると、10代後半に選択したならば、理系頭と文系頭のままで交わらずに進んでいくのです。もちろん、個人で研鑽を積む人もいるでしょうが、そのような人は例外の部類に入ると考えられます。

そうした教育を受けてきた果てには、技術は得意だがビジネスがさっぱりわからないエンジニアや、技術には疎いがビジネスのコツはつかんでいる営業社員など、社内は二極化と言えるほどの分化が起きてしまうのではないかと思われるのです。

したがって製造業では、技術戦略とビジネスの戦略が分断されたまま事業が行われるケースが増えるのではないかと考えるのです。

前述したイノベーションのフレームワークである、価値創造と価値獲得を思い出してください。価値創造は、新たな技術や製品をつくるプロセスです。これは日本企業では理系のエンジニアが担います。一方で、価値獲得のプロセスは、マーケティングや営業など文系のスタッフが担当します。社内で理系と文系が二分しているなかで、価値創造と価値獲得が統合的にマネジメントできない、これが日本のメーカーが抱える最大の問題と言えます。