欧州のEV対トヨタ自動車の全方位戦略

地球温暖化防止の風を受けて、欧州、中国を中心に自動車業界はいまEVが主流になろうとしています。トヨタ自動車は、もちろんEVも生産していますが、ハイブリッド車や燃料電池車、水素エンジン車などの開発も行う全方位戦略を取っています。トヨタ自動車の市場の見方を推察すると、以下のようだと筆者は考えます。

「グローバルという言葉どおりに世界を見渡した時、ヨーロッパのような脱石油が進んでいる国々にはEVが受け入られやすい環境が整っているが、日本や米国の中西部もそうだが他にも火力に頼っている新興国もあって、これらの国・地域では脱炭素という意味ではEVである必要がないし、そもそもEVに必要な電力供給のインフラが整っていない地域も多くある。特に世界でもっとも自動車を販売するトヨタは国内だけでなく、北米、中南米、欧州、アジアなどさまざまな地域でまんべんなく自動車を販売している。2位のフォルクスワーゲンは、売り上げの50%余りが中国で、EVを積極的に推進する中国やヨーロッパの地域のビジネスがほとんどなのでEVに特化する戦略を考えることもできるが、電力インフラ事情の悪い市場も多く抱えるトヨタは同じようなわけにはいかない――」

トヨタ自動車の豊田章男会長(2020年1月6日、ラスベガス)
写真=AFP/時事通信フォト
トヨタ自動車の豊田章男会長(2020年1月6日、ラスベガス)

今日のEVは必ずしも環境に良くない

また、ヨーロッパの国々は、標準や規格などのルールをつくる際、技術的な妥当性を主眼にするのではなく、自国のメーカーや企業にいかに有利に働くかという観点で発言をします。EVに関する議論でも、EVは欧州メーカーにとってメリットがあるのでEV寄りの発言をし、流れをつくってきました。

中国も同じです。中国は国産の自動車産業を世界レベルに引き上げたいと産業育成に注力をしてきました。しかし、従来の内燃機関の技術では日米欧に対抗できません。そのため、EVという根本的に異なる新技術を用いることでゲームチェンジを図りたいのです。ですからヨーロッパにしても中国にしても、EVを環境適応技術として推しているのは自国の産業育成や保護のためと言っても過言ではありません。

しかし、今日のEVは必ずしも環境に良いとは言えません。発電がクリーンエネルギーでなければ意味がありませんから、現在のところ、消耗品であるバッテリーの回収、リサイクル、処分などのめどが立っておらず、将来大量の廃棄バッテリーが生じた時の環境負荷を考えると、一概にEVが環境に良いとは言えないのです。

トヨタが全方位戦略を取る理由もここにあります。EVだけがカーボンニュートラルの最適解ではない、という技術的に正しい主張をしているだけなのです。