なぜトヨタの正論が受け入れられないのか

にもかかわらず、日本は菅政権の頃からEVだけがあたかもカーボンニュートラルに資する技術であるかのように、EV推しをし始めています。トヨタ自動車の戦略も、次第にその流れの圧力に押されてきて、全方位を全面的には打ち出しにくくなってきた、というのが現状です。

自国政府も味方をしてくれないのであれば、トヨタがいくら正論を唱えていてもそれがなかなか社会に受け入れられないのはやむを得ないでしょう。

技術者が技術的に正しいことを言うだけではビジネスにならない、というのはメーカーの宿命ではあります。日本の技術者の多くは理系で技術論だけを学んできているので、ビジネス的見地・感覚を身につける訓練は疎かになってきた、という歴史があります。これが1つの大きな問題点なのです。

自動車産業と半導体産業の「互恵的成長」

また、先ほども述べたように、今日の自動車には多数のECU(車載コンピュータ)が搭載され、かつてとは比較にならないほど、自動車開発に半導体が欠かせなくなりました。半導体産業にとっても自動車はかつて以上に重要な市場になってきています。

長内厚『半導体逆転戦略』(日本経済新聞出版)
長内厚『半導体逆転戦略』(日本経済新聞出版)

一方、日本の自動車産業のライバルであるヨーロッパの自動車産業は、伝統的に日本製の自動車部品をできるだけ使わないという風潮があります。敵に塩を送りたくないからです。ヨーロッパ内で調達できるものはヨーロッパ内で、それがかなわない電装部品は日本ではなく韓国から、といった具合です。

おそらく半導体製品についても同様な動きになるでしょう。トヨタやホンダなど日本の自動車メーカー各社は、日本で先端半導体の研究開発を行うための共同研究組織、自動車用先端SoC技術研究組合を設立しました(※1)。日本国内に半導体の製造企業が増えれば、必然的にこうした自動車産業との協業が増えるでしょうし、日本の自動車産業と半導体産業が互恵的に成長することも可能です。日本国内の半導体産業を育てることは、おのずと日本の自動車産業など他産業を育てることにもつながるのです。

(※1)https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231226-OYT1T50291/

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