技術で勝ってビジネスで負ける
話を元に戻して、成功体験と残念な歴史について述べます。
通信産業において、iモードが最初に出た頃の第2世代の携帯電話に、NTTドコモではmova(ムーバ)と言っていた時代ですが、搭載されていたのはPDCという技術でした。このPDCという技術は非常に優れたものでしたが、世界的にはGSMという同じ第2世代の技術に負けて採用してもらえませんでした。
電話は、相手とつながって初めて役に立つ機器ですから、いかに性能が良くてもつながらなければ商品価値はありません。これは「ネットワーク効果」あるいは「ネットワーク外部性の便益」というもので、単体の商品自体がどれほど優秀でもネットワークの規模が小さければ商品価値がない、ということです。その意味では、GSMはPDCと比べて技術的には劣るけれども世界中で使えるからこちらを選ぶという話になります。
これは、かつて日本で起きたベータ対VHSのビデオ戦争で、ソニーのベータ方式が技術的にはVHSより優ると言われても、VHSを持つ人が多いという理由で勝負の軍配はVHSに上がったのと同じ現象なのです。技術的に優れているだけでは、ビジネスとして成立しないということです。
国際会議で議論に入り込めなかった理由
第2世代で負けた日本は、次の第3世代携帯では世界が認める技術を握れば世界のビジネスで主導権を取れるのではないかと思ったわけです。そして、第3世代携帯の国際標準をつくるための国際会議に乗り込んだのですが、日本企業は、技術の標準をつくる場だからとエンジニアばかりをメンバーに選びました。しかし会議に出席した日本の出席者は、欧米メーカーの出席者を見て、エンジニアだけではなくマーケティングや経営戦略の担当者も同席させていることに気がついたのです。
標準規格を話し合う場でも、日本の参加者はエンジニアばかりですので、技術的な妥当性についての議論では発言しますが、欧米の参加者は、エンジニアよりもむしろマーケティングや経営戦略担当のメンバーの発言のほうが強く、論点となっている規格が決まった場合、自分たちにどのようなメリット・デメリットがあるのか、といったビジネス面での議論で盛り上がっているのです。日本は純粋な技術論以外の知識には乏しいメンバーですから、そうした議論に入り込むことができなかったと言います。
この場面を見ても、「技術さえよければ顧客はついてきてくれる」という日本の製造業の純粋さ、と言うよりも甘えが見て取れます。