「インプロ的な笑いの基本セオリーは、この『異常な場で日常に、日常の場で異常に、を当たり前のことのように行う』ということを頭に入れておいてください」

会話が続かない人がやりがちなこと

笑いのセオリーについては納得しきりだが、正直言ってこういうのを求めていたわけではなかった。というのも、自分は社内や友人の前でおかしなことを言うキャラではない。そう思っていると、渡辺先生はインプロの説明を始めた。

「インプロの笑いの基本フォーマットは『Yes,and』。これは、相手の話に対して『でも』『しかし』という『But』で反応するのではなく、相手の話を受け入れたうえで、それに乗っかって話を積み上げていくこと。会話が続かない人、場を盛り上げられない人は、これがまったくできません」

そう言われてドキッとした。まさに僕のことだ。「Yes,and」で笑いを取るためには、他人と違う異常なことを発表する勇気、アイデアを外に出す発想力、聞いて話すことを正確に行う論理力の3つを鍛える必要があるという。

そこで、この3つの力を鍛えるためのワークショップが始まった。訓練①はアウトプットするための勇気と発想力を鍛える準備運動だ。STEP①のように、やみくもに何の脈略もない単語を挙げてみても、なかなか出てこないが、STEP②、③のように、まず五十音の文字を挙げ、次にそれぞれの文字で始まる単語を挙げてみると、脈略もない単語が次々に出てきた。

「会話の際、困ると急に黙りこくってしまう人がいますよね? あれは黙るから何も浮かんでこないとも言えます。そういうときは『え~と』『ちょっと待ってください』とか、とりあえず何か声に出してみる。すると、その音がヒントになって、アイデアを思いついたりするのです」

続いて訓練②は論理力を強化するトレーニング。これは2人1組で一文節ごとにテンポよく言い合って、会話を成立させるというもの。

編集者の僕は論理力には少なからず自信があり、これなら簡単だと思い、隣の人とやってみた。

自分「昨日」
相手「私は」
自分「動物園に」
相手「猿を」
自分「見に行った。」
相手「猿の」
自分「……」

20秒ほど固まってしまった後に「見ていた子どもが?」という意味不明なことを言ってしまった。頭のどこかで「猿は」とくるかと思っていたのに、「猿の」と言われたため、思考が付いていけなかったようだ。柔軟な論理力に欠けていることを実感させられた。