「頭」を使って能力低下を防ぐ

世界保健機関(WHO)では認知症のリスクを低減するうえで「有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動」「禁煙」を強く推奨し、地中海食、和食などの「健康的な食事習慣」「脳トレ」「過度な飲酒の制限」「肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病の防止」にも効果を認めています。ここでいう認知症とは流動性知能の低下と考えていいでしょう。知力を維持するための習慣は、生活習慣病防止のための習慣とほぼ共通しているのです。

運動と健康的な食事に加えて認知症を防ぐのに効果的とされているのが、「頭を使う」ことです。認知機能は「何か覚えた後で別の作業を行い、その後にさっき覚えたことを思い出す」といった「ワーキングメモリーの多重使用」のテストで測られるので、そういう頭の使い方を日頃からやっていることがポイントです。

たとえば「数学の問題を解いたりクロスワードパズルをやっている人は認知機能が低下しにくい」という研究もありますし、定年前に経営的な仕事やクリエーティブな仕事をしていた人は、定年後も流動性知能が落ちないという研究もあります。

「年齢に関係ないとされる流動性知能も訓練すれば能力が高まる」と申し上げましたが、そうである以上、年をとると衰えがちな能力を意識して普段から使ってやることです。

管理職になると「頭を使う面倒くさい仕事は部下に任せてしまおう」となりがちですが、その意味では「面倒に思える仕事ほど自分でやるべき」と言えるでしょう。

篠原菊紀(しのはら・きくのり)
公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授
遊び中、運動中、学習中などの脳活動を調べ、脳トレへの活用や依存症の予防などを研究する。著書に『「すぐにやる脳」に変わる37の習慣』ほか多数。
(構成=久保田正志 撮影=葛西亜理沙 写真=iStock.com)
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