人間の脳の働きは年齢とともに衰えるばかり――そう思っている人は多いだろう。だが、経済界には60~70代の名経営者がたくさんいるし、50代で異業種に飛び込んで成果を上げる「プロ経営者」も珍しくない。それはなぜなのか。脳科学者の篠原菊紀さんが驚きの事実を明らかにする。「プレジデント」(2019年8月2日号)の特集「1日で自分が変わる『若返り』入門」より、記事の一部をお届けします。
知能には大きく分けて「流動性知能」と「結晶性知能」の2種があり、積み上げ型の結晶性知能は消えてなくなることはなく、年齢とともに深まっていく。だから50代のプロ経営者はそれまで縁のなかった業界に転じても成果を出せるし、それどころか語彙力など70歳近くにピークが訪れる能力もあるという。多方面で活躍する脳科学者の篠原菊紀さんに、一般の人には意外に思えるかもしれない科学の常識についてレクチャーしてもらった。
加齢とともに知能は向上する
人間の脳は知恵や知識や経験を貯め込んでいく「メモリー・マシン」で、記録された情報が増えるほど性能が上がります。ですから基本的には加齢とともに能力が向上していきます。ただ、ある程度の年齢に達すると認知機能が低下してきて、蓄積した知識が取り出しにくくなったり、新しい情報を記憶しにくくなってきます。
脳科学の世界では知能を大きく「流動性知能」と「結晶性知能」に分けています。
流動性知能とは「経験とは無関係な知的能力」という概念です。ここには計算力、暗記力、思考力、集中力などが含まれ、IQテストによって測定されます。
これに対して結晶性知能とは「経験を積むほど高まる知能」という概念です。結晶性知能は言語的知性とされ、人が過去に得た知識や経験がベースになっています。
流動性知能は「経験とは無関係な知能」という定義なのですが、現実にはIQテストも、計算や脳トレのようなトレーニングをすることで成績が上がります。事実、同じテストを繰り返し受けると得点が高止まりして、年齢による低下が見られなくなることがわかっています。流動性知能といえども経験による向上はあるし、訓練すれば年齢にかかわらずレベルアップするということです。