仕事をしながら親を自宅で介護する場合、出張や残業などでは親を一時的に施設に預ける必要がある。現場で働くケアマネジャーを取材した相沢光一氏は「多くの親たちは『邪魔者扱いされた』と思って、施設に行くことを強く拒む。だが、子供の中には、施設に慣れさせて、そのまま入所させようという狙いもあるようだ」という――。

介護する子と介護される親の折り合いが悪いワケ

介護サービスを受けている人を、介護業界では「利用者さん」と呼びます。

私がこの連載で介護の問題を定期的に書くようになってから、この「利用者さん」という言葉の使い方に頭を悩ませたことが何度もあります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/CreativaImages)

「利用者さん」とは基本的に介護サービスを利用するご本人(要介護者)を指します。ただ、その方が認知症でケアマネジャーと意思の疎通がとれないことがある。また、認知症でなくても、その方がどんなサービスを受けるかは介護する家族の事情によっても異なります。ケアマネジャーはご本人の意向はもとより家族の意見もくみ取り、ケアプランを作ることになる。つまり、ケアマネジャーにとって要介護者本人も家族も「利用者さん」というわけです。

この両者の意向が一致していれば何の問題もありません。たとえば、こんなケース。要介護になったお母さんを娘さんが介護することになったが、ふたりは仲良し親子。娘さんは良くなってほしい一心で最良の介護をしようと決意します。ケアマネジャーの説明を聞き、お母さんとも相談してふたりが納得したうえで利用するサービスを決める。サービスに対する意向は一致するわけです。

しかし、実際の介護現場でこうした美しい関係が見られることはほぼありません。

もともと親子の折り合いが悪く、子の側が仕方なく介護していることも多いですし、関係が悪くないにせよ子のほうが仕事などで介護に十分に力を注ぐことができず、その事情に合わせたサービスを親の意向に関係なく決めることもあります。親の希望と子の希望が相反する状況があるわけです。

むしろ、こうしたケースのほうが圧倒的に多い。ケアマネジャーからみた「利用者さん」の意向は異なり、同一に見ることができないことがあるのです。そのため、書き手としては「利用者」とひとくくりにした表現がしにくいのです。

要介護の本人の希望するサービスを家族が受け入れられない

そもそもケアマネジャーは「利用者さん」のうち、サービスを利用する本人と家族のどちらの意向を優先するのでしょうか。10年以上のキャリアを持つケアマネジャーIさんに聞いたところ、

「原則としては、ご本人の希望や意向を優先します。介護保険制度の目的は、要介護になった方の自立支援。そのために必要なサービスを組み込んだケアプランを作り、ご本人の状態を少しでもよくすることが、われわれケアマネジャーの務めですから」

介護をする家族も、その介護保険制度の目的を了解しているという前提で、本人の状態や意向に沿ったケアプランを作るといいます。

「ただ、実際に介護が始まると、そのとおりに事が運ばなくなってきます。介護をするご家族にも都合があり、それを無視するわけにはいきません。ご本人の希望するサービスをご家族が受け入れられないケースが出てくるのです」