自宅で老親の介護をする50、60代の「息子」が、困り果ててしまうケースが増えている。特に「排泄介助」は、育児の経験が浅い男性だと未体験であることが多い。介護現場を知るベテランのケアマネジャーは「パニックのような状態になって、その悩みを他人に打ち明けられず抱えこんでしまう男性も多い」という――。

50、60代の「息子」が老親の介護をすると「パニックになる」

介護は誰にとってもしんどいものだ。

とりわけ、老親を介護するのが息子である場合、妻や娘の場合をはるかに上まわる困難や辛さがあり追い詰められることも多いのが実情です。男性が介護の担い手になった時、具体的にどんな問題が起きて、どうしたらそれを乗り超えられるのか、現場を知るケアマネジャーに聞きました。

「私が担当する介護サービスの利用する家庭を見ていると、介護する側の暴言や虐待の気配がある目が離せない状態、いわゆる困難事例になる確率は男性が介護している家庭が多いですね」

そう語るのは、40代の女性ケアマネジャーMさんです。

「主に50代~60代の男性介護者には女性に比べ、乗り越えなければならない、いくつかのハードルがあります。介護者自身まだ働いており、部長など年齢的にも重要なポジションに就いているケースが多く、介護だけに集中できないこと。また、介護には要介護者のケアだけでなく、自宅内での炊事や洗濯といった家事が伴いますが、これに不慣れな男性もおり、1から覚えなければならないことも少なくない。ケアだけだって大変なのに仕事の心配もあるし、慣れない家事もしなければならない。介護が始まった途端、いろいろなことが一気に押し寄せてきてパニックになってしまうんです」

オムツ替えの経験の浅い男性は親の尿と便にうろたえる

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Difydave)

一方、20年のキャリアを持つ50代の男性ケアマネジャーのIさんは「基本的な介護ケアをするにおいても男性は高いハードルがある」といいます。

「多くの女性は出産・育児をします。育児ではオムツ替えもする。その経験があるせいか介護で排泄介助をすることになっても、それほど抵抗感なくできるんです。でも、男性はそういう経験をしていないで、初体験なわけです。(親の尿や便を前にして)当然うろたえるし、理性的に状況を把握できず、抵抗感以上に拒絶感を抱いてしまうのです。だから、排泄介助だけは絶対無理という人は多いですね」

最近はイクメンという言葉あるように育児に協力する男性も増えていますが、今、親の介護をすることになる年代の男性はどちらかと言えば育児を妻任せにしていた人が多い。育児はケアの一種ともいえ、それを続けた女性とその経験のない男性の差が介護にも出るのです。