ヤバいのは“安く使える都合のいい人材”と考える企業
昨年12月、外国人労働者受け入れ拡大に向けた改正出入国管理法が成立しました。採決までに繰り返された報道を、やり切れない思いで見つめていた人がいます。社会福祉法人「熊谷福祉の里」の中村洋子理事長です。運営する特別養護老人ホーム「クイーンズビラ桶川」(埼玉県桶川市)では、他に先駆けて外国人職員を採用してきました。
「議論を重ねることは必要だとは思いますが、出てくる話は『逃亡した』とか『トラブルがあった』とかいった外国人労働者に対するネガティブな話ばかり。彼らを“安く使える都合のいい人材”という発想が根底にあるのではないでしょうか」(中村理事長)
失踪者は2013年からの5年間では2万6000人
法案審議をめぐっては、職場から失踪する外国人技能実習生が増加していると盛んに報じられました。法務省の在留外国人統計によると、2017年末時点で日本にいる実習生は27万4000人で、前年より20%増えています。一方、失踪した実習生は7089人で、こちらも前年より40%増えています。失踪者は2013年からの5年間では2万6000人になるそうです。
もちろん、失踪にはさまざまな理由があります。
「決められた金額をはるかに下まわる賃金しか支払われなかった」
「長時間の過酷な労働を強いられた」
「専門技能を学べるはずだったが、それとは異なる単純労働をさせられた」
このほかにパワハラ、セクハラの事例もあったそうです。彼らは約束を守らない日本の経営者に騙された被害者なのです。しかし、報道では年間7000人の失踪者数が強調されます。不法在留者の約1割が技能実習生として来た外国人というデータもあり、
「実習生の受け入れを増やすと何をしでかすかわからない人が増える」
「事実上の移民の容認であり治安が悪化する」
といった人々の不安をかき立てるほうに、議論は向かいがちです。中村さんの施設のように外国人労働者の受け入れで好循環が生まれ、成功している事例についても同時に知るべきでしょう。