認知症高齢者が保有する金融資産は140兆円、2030年には200兆円を超える――。第一生命経済研究所が推計した数値が反響を呼んでいる。これは一人当たりになおすと平均2800万円にもなる。だが認知症になれば、預金口座が凍結され、自由に使えなくなるリスクがある。お金があるのに使えないという現実とは――。

認知症高齢者の保金融資産「140兆円」の衝撃

「認知症高齢者が保有する金融資産は、2018年3月時点で140兆円に上り、さらに高齢化が進む2030年には200兆円を超える」

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この数値を算出したのは民間のシンクタンク第一生命経済研究所。国がまとめた認知症の人の数や家計のデータをもとに預貯金や株などの金融資産をどのくらい保有しているかを推計したものです。

認知症になると症状の度合いにより、預貯金が凍結(自由に引き出せない)されることがあります。株などの有価証券も本人の同意がなければ解約できません。要介護者本人がせっかく貯めた総額140兆円もの資産の多くが、有効に使われないままになってしまうのは実にもったいない話です。

本連載では以前、認知症の親御さんの預貯金が凍結されたことで、息子が生活費や介護サービス費用を負担することになり、家計が追い詰められた、という話を紹介したことがあります。老後のためと思ってせっせと貯めたお金を自分のために使うことができない。それどころか家族に迷惑をかけてしまうということがあり得るわけです。

認知症の親の預貯金が凍結されると……

「家族が負担するといっても、親に資産があることがわかっていれば、その人の死後、遺産相続で補填できるからいいじゃないか」と考える向きがあるかもしれません。しかし、それを実現するにはいくつかのハードルを乗り越えなければなりません。

人が死に、それが親族の告知などで金融機関に知られると、その人の預金口座は凍結されます。相続人一同の了解を経ずに親族の誰かがその預金を引き出すと、トラブルになるからです。

といっても、故人の葬儀代や生前の入院費などで高額の支払いが生じるケースは少なくありません。その場合は凍結期間中でも親の預金を引き出すことはできますが、手続きには法定相続人全員の同意を確認できる書類やら全員の戸籍謄本、印鑑証明書など多数の書類が必要になり、大変な手間がかかるわけです。