医師は診断の際、患者に問診を行う。症状の訴えに応じて、診断を下していくが、実際にどれほどの痛みなのかはよくわからない。医師で医療ジャーナリストの富家孝氏は、「自分自身が心臓病と糖尿病になって、『これが自覚症状なのか』と驚いた。医者は病気を『本当』には知らないとわかった」という――。
検査が充実したとはいえ、病気の本当の姿を表すのは本人の自覚症状だ――。(写真はイメージです。写真=iStock.com/TeoLazarev)

医師は病気を「本当」には知らない?

私が医者になって、じきに半世紀になろうとしています。すでに70歳を超えました。一般の人ならすでに職業生活を終えて引退している年ですが、医者には定年がありません。医師免許は終身です。

よって、いまも私は医者を続けているのですが、年齢を重ねてつくづく思うのは、実は病気を本当には知らなかったということです。もちろん、病気自体は知識と診察の経験から知っています。しかし、その症状や、そのときどんな感じになるかなどは、医者といえども、実際に体験しないとわからないのです。

なぜそう言えるかというと、私自身が、二つの体験をしたからです。一つは心臓病、もう一つは糖尿病です。

心臓病というのは、たいていの場合、胸が苦しくなるという自覚症状によってわかります。私が初めてなにか胸が押し付けられるような感じになったのは、平成16年12月6日の朝方のことです。

胸に突然の圧迫感と冷や汗

私は手帳に自分の体験を細くメモしているので、正確に記すと、午前7時10分のことで、このとき、左胸部にそれまでになかった圧迫感を感じ、冷や汗が出ました。医者としての直感から、これは血管になにか異変が生じていると思い、すぐに知己の心臓外科医・南淵明宏氏に連絡を取りました。彼は、心臓外科の世界では有名な凄腕を持つ名医です。

「すぐ来てください」と言われ、私は彼の病院に駆けつけました。そうして、CTと心電図の検査を受けました。すると異常がないということでしたが、エコーを見ると左室が動いていないのです。

「これはステントを入れないだめですね」と、南渕医師。冠動脈前下行枝が90%以上が詰まっているというのです。ステントというのは、ステンレススチールやコバルト合金などの金属でできているチューブで、これを血管に入れることで血流が回復します。こうして、緊急でステント挿入手術を受けました。