年齢を重ねると増えてくる体の変調。突然のそのとき、どこの病院に行き、どんな医師を訪ねるべきなのか。9つのポイントで検証した。第5回は「神の手vs地元の赤ひげ」――。

※本稿は、「プレジデント」(2018年12月31日号)の掲載記事を再編集したものです

こんなに違う日本の開業医と欧米の「家庭医」

山本周五郎が小説で描いた『赤ひげ診療譚』の昔から、日本には高度な医学教育を受けた専門医があえて野に下り、病に苦しむ庶民を助けるという伝統がありました。今でも医学部で専門医教育を受けた医師たちの多くが、大病院の医師ではなく町の一般医として開業しています。元は心臓病が専門でも、開業後は風邪でも胃腸炎でも何でも診ますというスタイルです。

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こうした「元専門医の開業医」というあり方は欧米では一般的ではありません。なぜなら欧米、特に欧州では「家庭医」が1つの専門領域として成立しているからです。家庭医は医学部での教育内容も臓器別の専門医とは異なり、広く浅く疾患の知識を身につけ、そのうえでコミュニケーション術やカウンセリング術を学んでから開業します。

開業といっても日本のようにレントゲンや超音波の設備などを所有する大きな診療所を持たない医師も多いですし、せいぜい聴診器と注射くらいで時には往診もしています。

彼らの役割は「ゲートオープナー」。患者が必要としている専門的な医療やケアの扉を開け、適切に受けられるように支援することなのです。

病気になればどの病院にでも受け付けてもらえる日本とは違い、欧州では緊急時を除き、家庭医を通さずに病院を受診することはできません。家庭医があらかじめ患者を振り分けることで、医療資源の無駄遣いを防いでいるのです。

日本でも新制度がスタートした

日本の厚生労働省もこうした家庭医制度をまねて、2018年4月から「総合診療医」を専門医とする新制度をスタートさせました。

一方、「神の手」と呼ばれるような高度な専門医が在籍するのが高度専門病院です。こちらは現在、「センター化」といって一カ所に集約する政策がとられています。

今後、地方では患者数の激減によって病院(特に公立病院)が存続の危機を迎えるといわれています。そう遠くない将来には、県庁所在地クラスの都市に大学病院や高度な総合病院が1つ、それより小さい都市には200床未満の中小病院があるかないか、という状況がやってくるかもしれません。その中では医療の高度化もあいまって、これまでは急性期医療で頑張ってきた中小病院も、高度な難しい治療には手を出せなくなると見られています。