すると、がんや脳卒中、心筋梗塞など大がかりな手術や処置が必要な疾患は、多少遠くても大学病院や総合病院といった「センター病院」に集まるはずです。

そして腰痛や人工股関節手術などの整形外科領域や、肺炎、糖尿病、リウマチなど複雑な内科疾患は実力のある中小病院がきちっと管理し、より一般的な疾患や慢性期の下支えは、開業医が担当する。このような3段階の構造が出来上がるでしょう。

「神の手」と「赤ひげ」どちらを選ぶべきか

こういった状況認識をしたうえで、遠方の「神の手」と地元の「赤ひげ」のどちらに診療を任せるべきか、というテーマについて考えてみましょう。まず言えることは、病気やそのステージ(病期)によって、選択の仕方が違ってくるということです。

たとえば、がんや心筋梗塞のように、最初の治療方針が成否を分けるような複雑な病気は、総合病院などの専門医に診てもらうべきです。すなわち「神の手」です。

他方、高血圧や脂質異常症(高コレステロール血症)、痛風(高尿酸血症)などシンプルな病気は、地元の開業医で診てもらうほうが後々の通院を考えても便利です。つまり「赤ひげ」を選択するべきです。

判断が難しいのは、2型糖尿病など、新しい薬がどんどん出てきて、治療法が複雑になっている病気です。

薬の組み合わせ次第で逆に悪化することもありうるので、最初は専門医を受診して、治療方針を確定してもらうほうがいいでしょう。その後、2型糖尿病の管理がうまい地元の開業医を紹介してもらうという形にすると、通院や待ち時間の負担が軽くなります。要するに、大病院と地元の開業医との「使い分け」です。

こうした使い分けができるのは、日本の医療制度ならではの利点といえるでしょう。

地元の「赤ひげ」意外な"活用法"

ところで、「赤ひげ」――すなわち地元の開業医については、次のような「活用」の仕方もあるということを申し上げておきましょう。

一昔前までは「100%治癒」を目指していたのが医師をはじめとする医療者ですが、近年は患者の希望に沿って、リスクが高い治療や、苦痛ばかりが長引く延命治療を控えるようになっています。

ただ、高度専門病院の若手医師は「患者を救う」使命感に燃えて、患者に治療を強いてしまうことがあります。

「いや先生、私はこう思うから」と伝えることができればいいのですが、自分の希望を話すことができない患者が多いのも確かです。そうした際に、いつも診てもらっている「赤ひげ」先生に相談ができると心強いと思います。