生産技術・評価基準の進歩で味が向上

――永嶋さんは33年前に独立後、飲食業界のコンサルタントとして活動され、カフェチェーン「トラベルカフェ」社長も務めました。平成時代、コーヒー業界・カフェ業界はどう変わりましたか。

まずコーヒーに関しては、味が格段においしくなりました。まずいコーヒーを出す店を探すのが、難しいほどです。その理由はいくつかあります。

そもそもコーヒーは「3たて」=煎りたて・挽きたて・淹れたてが一番おいしいと言われます。そのとおりですが、私は「原料7割・焙煎2割・抽出1割」だと考えます。良質なコーヒー豆を仕入れなければ、本当のおいしいコーヒーはできません。原料のコーヒー豆は農作物ですから、産地の取り組みなど生産方法が進化し、浅煎りや中深煎り・深煎りなど豆の特性にあった焙煎の研究も進んだ。抽出器具も進化した。味は、これらの集大成です。

その味覚構成に大きな影響を与えたのが「スペシャルティコーヒー」です。スペシャルティコーヒーと呼ぶ高品質なコーヒーは、推定で収穫量全体の3%程度ですが、甘さや酸味、口に含んだ時の質感など、コーヒーの味を体系化した指標もできました。国内でも「日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」が発足し、商品展示会やバリスタ競技会も運営しています。

生産地の支援態勢も進みました。まだ課題は残りますが、良質なコーヒーを栽培して収穫・精製するノウハウは、コーヒーロースター(焙煎業者)をはじめ各社が支援しています。その結果、特別なコーヒーを栽培する農園、一般普及型コーヒーを栽培する農園といった生産体制も整備されてきた。インターネットの進展もそうした活動を支えました。

カフェにとって「コーヒー」はどれだけ重要か

――そもそもカフェにおけるコーヒーの存在とは何でしょう。

コーヒーは店にとって、主力メニューであり、ドル箱商品です。コーヒーオークションで、よほど高価な豆を買わない限り、利益率も高い。これを自宅や職場では味わえない空間やこだわりの什器、心地よい接客で提供するのが、カフェビジネスの基本です。

昭和時代に「喫茶店ブーム」がありましたが、そのブームが去った理由を2つ挙げましょう。ひとつは、喫茶店にコーヒー豆や食材を納入するロースターが「コーヒーの味を変えるとお客が逃げる」と、あえて重要でないことを店主に伝えたこと。そのほうが商売しやすかったからです。もうひとつは、コーヒーに対する学びを怠り、蒸らし機能のない安易なコーヒーマシンを導入する店主の方がいたことです。その結果、原材料も抽出技術も低下したのです。

その手の店を敬遠したお客さんが選んだのが、「自家焙煎珈琲店」や「専門店」でした。現在も人気の老舗店や、新しくできた繁盛店は、店主やスタッフが非常に勉強しています。