この苦い経験をしてから、コンサルティングでも、複数のコンサルタントを雇っている会社の仕事はしないことにしている。それから、「ウチの会社はこういうことがやりたいので、A社さん、B社さん、C社さん、提案書と見積書を出してください」という入札仕事も絶対にやらない。「大前さんしかいない」と言ってくれなければ、考え始めない。自分の人生の大切な時間を割いて、相手のために命がけで考える神聖な仕事である。量販店の売り物ではない。

ソ連邦崩壊後の新生ロシアがコンサルティングを受け入れたいということで、エリツィン政権からマッキンゼーに話がきたことがある。マッキンゼーで国家レベルのコンサルタントをやっていたのは私だけだったのでお鉢が回ってきたのだが、ハーバード大のジェフリー・サックス(経済学者、現コロンビア大学地球研究所長)らもコンサルティングに入っていると聞いて、すぐさま断った。

ジェフリー・サックス一派のコンサルティングの性質の特徴は、ロシアでも「本場アメリカの市場経済を教えてやる」とばかりに強引に市場経済化を進めた。

結果、ロシア経済はマフィアに牛耳られてマフィア経済的資本主義に歪んでしまう。サックスと一緒にやっていたハーバードの教授の中には民営化する、というインサイダー情報を先に握り国営企業の株をロシア人の従業員から買い取り、民営化後に巨額のあぶく銭を手にした、と報道されている。そんな連中と競わされて仕事をするつもりはなかった。

韓国で李明博大統領が誕生したときも、アドバイザーの要請がきた。当初、財界出身で、わりと筋のいいリーダーが登場したと見ていたので詳しく話を聞いてみると、アドバイザリーボードが9人いて、そこにビル・ゲイツの名前もあった。

ボードメンバーが9人もいたら、2時間の会議で1人10分少々しか持ち時間がないから、まともに議論もできない。つまりは李明博が政権の箔付けに使うためのアドバイザリーボードと気づいて、「そんな暇人じゃない」と辞退申し上げた。このボードがその後、重要な仕事をしたということは寡聞にして聞かない。

(小川 剛=構成 大沢尚芳=撮影 Alamy・AP・ロイター・毎日新聞/AFLO=写真)
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