自分をさらけ出せなくて息苦しいときは、どうすればいいのか。明治大学の石川幹人教授は、「時と場合によって、異なる自分を演じ分けるのは当たり前のことだ。演じ分けている自分が“本当の自分”なのだと考えると、生きるのがラクになる」という――。

※本稿は、石川幹人『その悩み「9割が勘違い」 科学的に不安は消せる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

人間の鎖紙
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自己イメージと他者イメージ

「職場とプライベートで違う自分がいて、本当の自分がわからない」
「今の職場での仕事は順調なのに、どうも自分に合っていない気がする。週末のボランティア活動では生き生きと自分を表現できているのに、職場では自分を隠しているようで息苦しい」

このように“本当の自分”にまつわる悩みは多く見られます。これらは自分が唯一絶対のものであり、いつでもどこでも矛盾なく一貫したものでありたいという願望の表れとも言えます。

これは人類が長年の遺伝から学んだ「ホットハート」と、そこから理性的に判断する「クールマインド」のズレに鍵があります。

私たちの祖先は狩猟採集時代に一〇〇人程度の小集団で協力作業をしていました。そうした小集団では、獲物を追う、木の実を集めるなどの作業分担がなされており、当然、各個人の強みを活かして仕事が割り当てられていたでしょう。

木の実を集めるのが得意な人は、自分からその仕事を申し出ることもあったかもしれませんし、申し出た以上はしっかりと仕事をこなす必要があります。それがうまくいくと、「木の実を集めるのが得意」という自己イメージと、他者から見た「木の実を集めるのが得意な人」という他者イメージが合致します。

私たちのホットハートは、この自己イメージと他者イメージが合致したときに、充実した感じを得るようになっています。“本当の自分”に従って生き生きと働くことが、小集団での分担作業を円滑に進める原動力になっていたのです。