学校の「授業参観」での振る舞い方に迷う理由
ところが、現代社会の仕事は複雑になってきました。自分が不得意と思う仕事や、やりたくない仕事でもこなさなければならないことが多くあります。すると、現在の仕事が“本当の自分”とズレている気がしてくるのです。
ホットハートの仕組みは、比較的単純な仕事を覚え、何年もかけて熟練していくという生活環境のもとで成立していました。複雑で流動的な仕事に対応すべき現代では、その仕組みを変えていく必要があります。
まず、“本当の自分”は一つとは限らないと認識しましょう。小学校のころを思い出してください。家庭での自分と学校での自分は、かなり異なる自分だったはずです。その両方とも“本当の自分”と考えてよいのではないでしょうか。狩猟採集時代の小集団では、家庭も学校もなくいつも同じ集団にいたので、「単一の自分」だったのですが、それが現代では「複数の自分」になったというわけです。
ところが、家族が授業参観に来ると困った事態になります。家庭での自分としてふるまうか学校での自分としてふるまうかの迷いが生じるのです。授業なので学校での自分を出すと、家族が抱いてきた自分のイメージと矛盾してしまうのが悩ましく感じます。
こんなときはクールマインドを使って、時と場所に応じて「自分は複数ある」と思うのが有効です。先の例では、家庭での自分と学校での自分は違うのだと言い聞かせます。授業参観に来た家族は、家庭とは違った自分を見に来たと考えるのです。
異なる自分を「演じる」、それもまた「本当の自分」
この言い聞かせは、人によってはホットハートが邪魔をするのでかなり難しいです。狩猟採集時代の作業分担では、担った仕事を最後まで一貫して果たす責任があったので、途中でその仕事に飽きてしまうような心変わりが許されませんでした。そのためホットハートは、自分らしく生きたいなどと、常に安定した「自己イメージ」を維持するように働きがちなのです。
もちろん、現代でも担った仕事は最後まで果たす責任がありますが、その仕事が終わったら、心変わりをしても一向に構わないのです。ホットハートは頑固に動きがちですが、クールマインドを駆使して、その頑固さを和らげる方向にガイドしましょう。
そのヒントになるのが、演劇の意識です。時と場所に応じて異なる自分を演じるのです。自分を演じると言うと、どれも“本当の自分”ではないように感じるかもしれませんが、異なる自分を演じ分けられる自分が“本当の自分”なのだと思うようにしましょう。クールマインドには、自分を拡大して捉えられる柔軟性があるので、それを利用するのです。