「気の合う仲間がいない」は転職の理由になるだろうか。明治大学の石川幹人教授は、「『職場に仲間がいるべきだ』という考えは間違いだ。職場に仲間は必要ない。職場以外の場所で居場所があればいい」という――。
※本稿は、石川幹人『その悩み「9割が勘違い」 科学的に不安は消せる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「協力的」「利己的」という相反する仕組み
狩猟採集時代の協力集団では、「助け合わねばならない」という掟があったにちがいありません。と言うのも、人間にはサルの時代までに身につけた利己的な行動をとる「心のモジュール」も残っているからです。それが強いと、獲物をひとり占めしようとしたり、助けられても助け返さないタダ乗りをしようとしたりします。そのような行動をとる個体は「掟違反」と見なし、集団から排除する仕組みもあったはずです。
この事実は、私たちの心の内をのぞいてみると納得できます。仲間の誰かがルール違反をしたらどんな気持ちがするでしょうか。きっと誰もが強い憤りを感じるでしょう。憤りから来る怒りをその裏切り者にぶつけて反省を促し、心を入れ替えて掟に従うようになれば、また仲間として迎え入れます。
このように私たちには、「裏切り者検知」「憤り」「許し」「仲間意識」など、一連の仕組みが備わっています。前述の公平感、恩義、義理人情のみならず、ルールを守る道徳観もこの時代に形成されました。狩猟採集時代は、助け合いを成立させるために、人間に多くの機能が一気に進化した特別な時代だったのです。