「自信」とは自分を信頼できる感覚
まず「自信」とはなんでしょうか? わたしはこれまで、自身の心理学をはじめとする研究と、何千例ものカウンセリング経験をもとに、「自己肯定感」の働きについて学びを深めてきました。その自己肯定感を構成する要素を「6つの感」(①自尊感情、②自己受容感、③自己効力感、④自己信頼感、⑤自己決定感、⑥自己有用感)として表していますが、そのなかのひとつである「自己信頼感」がこれにあたります。
自己信頼感とは、「わたしならできる」と、自分の能力や自分の可能性を感じられているうえで、そんな自分自身のことを信頼できる感覚のことです。例えば、ある製品やサービスを「わたしは売ることができる」と思っているビジネスパーソンならば、そんな自分を心から信じられることを指します。
自信がなくなると、自ずと自分を頼りにできなくなっていきます。失敗して落ち込んだときや病気になったとき、あるいは友人間や組織における人間関係のトラブルなどで気が病んでいるときも、自分を頼りにできなくなりがちです。
特に、中堅以上の立場にあるビジネスパーソンは、様々な人間関係のしがらみのなかにありながらも、具体的な成果を日々厳しく求められます。そのため、人間関係に気を使いすぎたり、周囲の評価に振り回されすぎたりしていると、自分を頼りにする感覚がどんどん薄れてしまうということが起こりえます。
自分の現状を知って、それを受け入れる
では、自信を失ってしまったとき、どのように対処していけばいいのでしょうか。これは「失敗との向き合い方」にも通じますが、大きくふたつのステップがあります。
最初のプロセスは、「①現状認識」をすること。自信を失ったときに、自分自身で、「いま自信がなくなっている」と認識できるということです。ビジネスを例にするなら、「期末目標に業績が及んでいないから自信がなくなっている」というように、現状を客観視できていることが、これにあたります。
失敗した自分を現状認識したうえで、次のステップは、それを「②受け入れる」ことです。たとえ目標に及んでいなくても、「いいんだよ」という言葉を使って、事実を受け入れていくことが大切です。もちろん、ビジネスでは目標を達成しないでいいわけはないのですが、事実は変わらないわけですから、潔くそれを受け入れていく。そうしてはじめて、自分と向き合い、頼りにするというプロセスへと進んでいけるのです。
①、②のステップを踏んでいくことで、自分の現状に対して具体的に向き合えるようになります。「足りなかったことはチームビルディングだ」「コミュニケーションの質がよくなかったのかもしれない」「決断が1週間遅かったのだろう」などというように、前向きな気持ちで課題と解決策を見出すようになり、再び自分を頼りにできる状態になっていくわけです。
「失敗してもいい」と思えたときに道が開ける
自分が置かれた現状を認識し、それを受け入れるプロセスがなければ、どうしても現状に飲み込まれてしまい、心はネガティブな状態になっていきます。かつてあるフィギュアスケート選手のメンタルトレーニングをしたときに、こんなことがありました。
その選手は、練習では見事なジャンプを跳べるにもかかわらず、本番になるとうまくいかない状態が続いていました。わたしのアドバイスは、とてもシンプルでした。「自分は本番でジャンプを失敗することをもう知っている」と思ってもらったのです。そして、先に述べたように、「別に失敗したっていいんだよ」と、自分自身を受け入れる作業を進めていきました。
すると、やがてその選手は、はじめて自分に対してネガティブではなくフラットに向き合えるようになり、「失敗を想定した対処法」を具体的に考えられるようになったのです。
フィギュアスケートの採点はジャンプだけで決まるわけではなく、スピンなどほかの技や芸術点、審査員へのアピールなど、たくさんの加点ポイントがあります。そこで、スピンのレベルを上げたり、ステップを華麗にして表現力をアップしたり、審査員と何度も目を合わせるようにしたりというふうに、加点ポイントをリスト化して積み上げていきました。そして驚くことに、本番でのジャンプの失敗を想定してトレーニングを続けたところ、結果的にジャンプまでうまく跳べるようになっていったのです。
自分の現状を認識して、いったんそれを受け入れると、心に余裕が生まれます。だからこそ、未来に向かって具体的な行動ができるようになり、やがて自分のなかから静かな自信が湧いてくるのです。
「そうなんだ」というひとことが組織を変える
いま自分が置かれている現状を正確に認識し、受け入れていく態度は、当然リーダーやマネジメント層の立場にあるビジネスパーソンにとっても重要です。一般的にリーダーは、部下やチームメンバーからよくない報告もたくさんされるものです。また、そんな部下たちの失敗の責任を負っています。でも、そんな報告を受けたときに、「そうなんだ」というひとことがいえるかどうか??。それが、実はいいリーダーであるか否かの分かれ目になります。
部下が失敗したり、困ったことやトラブルを報告してきたりしたときに、「そうなんだ」と受け入れて、冷静に現状を認識することができれば、その後は建設的に未来へ向かっていくことができます。逆に、「誰がやったんだ?」と犯人探しをしたり、「なぜ言われたことができないんだ?」と怒ったりしても、現状を正しく認識できなければ、いくら怒っていてもその状況から脱することはできません。
また、そんな態度ではチーム内のコミュニケーションに齟齬が生まれ、お互いに不安や疑心暗鬼が募っていくことで、組織の生産性も下がってしまいます。結局のところ、厳しい現実を受け入れたほうが効率の面ではるかによく、自信が回復していくスピードもまた速くなるのです。
自己肯定感は、ものごとの「肯定的な側面を見る」という視点の変換ができる感覚が基礎にあります。たとえ厳しい状況に陥っても、すぐに「そうなんだ」と受け入れて肯定的な側面を見ることができると、状況を打開しやすくなります。人の上に立つ立場になったときこそ、すぐ怒ったり否定感に苛まれたりするのではなく、「そうなんだ」と軽やかに言える自分をぜひつくってください。


