些細なことで怒りやすい人の深層心理は何か。早稲田大学名誉教授の加藤諦三さんは「家族の返事一つでテーブルをひっくり返してしまう人の無意識にあるのは怒りと敵意であり、さらにその奥には人との結びつきを求める心理がある。自分と家族の心が結びついているという確信と安心感がなく、不安だから、おかしな反応をしてしまう」という――。
※本稿は、加藤諦三『不安をしずめる心理学』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
不安な人は結局、誰とも心が結びついていない
不安の原因の一つは、隠された怒りや敵意です。これは、その人が無意識の中に抱いているもので、意識されたものではありません。
自分は一人、敵意に満ちた世界で無力なまま放り出されていると感じている。
要するに、人を信じられないということです。
こうした周囲の世界に対する無意識の怒りや敵意が不安の原因ですから、本人はその原因を理解していません。
例えば、「妻の返事の仕方一つで怒り出す」「出迎えの仕方一つで怒ってしまう」「子どもが、『お父さんお帰りなさい』と言って、玄関で喜んで迎えないと、テーブルをひっくり返して家の中で荒れる」「不機嫌そうに黙り込んでしまう」……。
そういう夫の無意識にあるのは怒りと敵意であり、さらにその奥にあるのは、人との結びつきを求める心理です。
他人と心がしっかりと結びついている、という安心感があれば、そんなことで怒ったりはしません。
表に表われるのは、「すぐに怒鳴る」「テーブルをひっくり返す」ですが、その心の底の無意識の部分では、家族との安定した関係を望んでいるのです。
経済的結びつきではなく、血のつながりでもなく、本当に心の触れ合い……安定した関係、自分と他者の心が結びついているという確信と安心感です。
それなのに、人を信じられず、不安だから、おかしな反応をしてしまう――表にあらわれた現象としての反応は攻撃的ですが、望んでいるのは「他者と結びつきたい」という人間的な願望なのです。
夫は心の底の、さらにそのまた底では安心したいと思っています。不安だからこそ、これだけ怒ってしまうのです。
では、なぜ不安かというと、この場合でいえば、他者、妻と心から結びついていないからです。

