なぜ病気と診断されるために、医者を渡り歩く人がいるのか。早稲田大学名誉教授の加藤諦三さんは「お医者さんから別のお医者さんへ渡り歩くのは、病気を治すためではなく、『あなた病気ですよ』と言ってもらい不安から逃れようとする心理が働いている」という――。
※本稿は、加藤諦三『不安をしずめる心理学』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
病気になりたいという願望
子どもの頃、学校に行きたくない時に「行きたくない」と言って、親に「行きなさい」と怒られた経験はありませんか。
しかし、病気になれば別です。親が学校に電話をかけてくれて「休んでいい」と言ってもらえる。病気にさえなれば、いま直面している不安な状況からは逃れられ、会いたくないみんなにも会わずにすませることができたのです。
これは、身体化症候群です。
心理学者のロロ・メイはこのように述べています。
「またきわめて興味のあることは、人々が表向きに器質的な病気になるとき、不安が消えていく傾向にあるということである。」(『不安の人間学』〈著〉、小野泰博〈訳〉、誠信書房、67頁)
自分の力が試されるというのは不安です。しかし病気になれれば、その試練を大きな顔をして逃れることができます。そこで腹痛、片頭痛、過敏性腸症候群を発症するケースが、実は多いのです。
「ドクターショッピング」という言葉があります。これは、お医者さんから、お医者さんへ渡り歩くことです。
お医者さんから別のお医者さんへ渡り歩くのは、病気を治すためではありません。「あなた病気ですよ」と言ってもらい安心するために、お医者さん回りをするのです。ですから、医学的に病気でなくても、「病気ですよ」と言ってさえもらえれば不安がなくなります。
実際に病気になるよりも、心の不安に耐えているほうが、実はもっとしんどいということです。病気になれば、自分の価値が脅かされることがなくなります。だから、「あなたは、こういう病気です」と言ってもらい、不安から逃れようとするのです。

