※本稿は、枡野俊明『あらゆる悩みが消えていく 凛と生きるための禅メンタル』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
喫茶喫飯(きっさきっぱん)
まるで結界を張るように、自分の時間を大切に守る
大量の仕事を抱えて困っている同僚がいたら、手を貸してあげる。それが自然にできるのは、すばらしいことです。ただし自分にも余裕がないのだとしたら、無理して助っ人に回る必要はありません。ましてや、「いい人だから、頼みは断らないよね」と期待されてのことなら、受け入れる必要などないのです。
あるいは、最近は「デスク爆弾」なる言葉もあるようですが、たとえば職場で延々と雑談につかまってしまうような状況。こちらも自分の本意でないのであれば、タイミングを見て、感じよく切り上げるようにしましょう。
「喫茶喫飯」とは、お茶を飲むときはお茶に、ご飯を食べるときはご飯に集中せよという意味の禅語。つまり、目の前にあることにひたすら神経を注ぐことが大切なのだということです。
時間は有限。ですから、今、自分が力を尽くすべきものは何なのか? ということを、常に見据えておきたいものです。
そして、本当に大切なもの以外は、切り捨てる勇気を持ちましょう。あれもこれもと手を出していては、すべてが散漫になり、仕事の質を上げることはできません。
冒頭の例で言うと、もちろん、自分が本当に相手の力になりたいと思ったのなら、手助けをすればよいし、気分転換をしたいと感じたのなら、雑談にも快く付き合えばいいでしょう。
ですけれど、「今は自分の仕事に専念したい」と感じるのなら、そちらを優先すべきです。
「付き合わないと、気まずくなるかな」などと考える必要はありません。判断のポイントは、自分の状況と気持ちです。そこをおざなりにして、「嫌われたくない」が先行してしまうと、どんどん便利屋さん扱いされ、「都合のいい人」という不名誉な称号を得ることになるかもしれません。ぜひ、「いい人でいるための仕事」を捨てられる自分になってください。
仏教では、「けじめをつける」という考え方を大切にしています。神社に鳥居があるように、お寺にも大きな門があり、そこで空間を区切っています。いわば、結界を張っているのです。
大きなお寺の場合は3つ門があり、本堂に近くなるほどに空間は清らかさを増し、「浄域」の度合いが増していきます。ぜひ、仕事においてもこの考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。
自分自身に結界を張るつもりで、「ここまでは時間を明け渡すけれど、ここからは譲れない」といった境界線を設けるのです。その毅然とした意志がオーラとなって、あなたを「振り回されない人」にしてくれるはずです。
自分の領域に必要以上に人が踏み込んでこないよう防御することで、自分のペースを守る。それも大切な仕事なのです。
そしてまた、「便利屋さん」扱いされないために大切なのは、「ここは自信がある」という、自分の得意分野に磨きをかけることです。自分にしかできないことや、誰もが「この分野なら、あなたが一番」と認めるような能力を向上させていくのです。
私は日頃から、「苦手なことを克服するより、得意なことを伸ばしたほうがいい」と言っています。苦手なことを平均点以上にしようとするのはなかなか難しいですし、本人にも苦痛を強いること。一方、得意なことは磨けば磨くほど熟達し、スペシャリストへの道筋ができていくのです。
そうして自他ともに認める能力を身につければ、周りもそう気軽に「手伝ってくれ」とは言えなくなるはず。便利屋さんとしてではなく、突出した実力で指名される人になるのではないでしょうか。

