大阪・関西万博が場内“全面禁煙”の方針を変更し、会場内にも喫煙所を設けた。日本女子大名誉教授の細川幸一さんは「“煙のない万博”を掲げてきた万博協会の方針転換の背景には、タバコをめぐる制度の抜け穴と政治の“本音”がある」という――。

万博会場に喫煙所ができた

大阪・関西万博が開催されてほぼ2カ月が過ぎようとしている5月26日に、日本国際博覧会協会(万博協会)が“煙のない万博”の方針を突然変更したというニュースが駆け巡り話題となった。全面禁煙としている万博会場内にも喫煙所を整備するというのだ。

当初から東ゲートに近い会場外に2カ所の喫煙所があるが、ゲートを一度出なければならず、会場に戻るには再入場の手続きが必要だった。そのため、離れた会場西側から利用するにはとりわけ時間がかかり、また、パビリオン関係者らが会場内の建物の陰に隠れてタバコを吸うなどのルール違反が相次いだという。来場者や会場で働く喫煙者のスタッフらのニーズを考慮する必要があると判断したということだ。

6月上旬に利用を開始する予定(6月28日からに決定)としたが、ルール違反があったからと言ってルールを守らせるのではなく、ルールを変えたのだ。当然、この決定に対して、禁煙推進団体は反発した。タバコ問題情報センター代表理事・日本禁煙学会理事の渡辺文学氏は、「公の場では吸わないのが当たり前の社会になっている。万博は全面禁煙がベストだ」と訴えている(5月26日付神奈川新聞ほか)。「『いのち輝く未来社会のデザイン』というテーマに完全に逆行している」という考えだ。

大屋根リング西側に設置された喫煙所
写真=朝日新聞社/時事通信フォト
大屋根リング西側に設置された喫煙所。EXPOメッセ「WASSE」のすぐ隣にある=2025年6月25日午後6時47分、大阪市此花区

煙のない万博の理念はどこへ

万博協会のパンフレットには、「会場内でタバコを吸うことはできません。タバコを吸う場合は、再入場の手続きを行った上で、東ゲート外側の喫煙所をご利用ください。」との記載があり、喫煙者に対し、会場の外に出て喫煙所を利用するように呼びかけてきた。

今回の方針変更で、大屋根リングの北側と、催事施設「EXPOメッセ」の南側に喫煙所を新設。この結果、会場内2カ所、会場外2カ所の計4カ所となった。

万博会場は155ヘクタールで東京ドーム33個分と広大だ。そこに喫煙所を設けず、場内を全面禁煙としている中で、喫煙者が不便を感じ、結果として場内で隠れて喫煙するような状況は、結果として煙のない万博の理念を維持できないという今回の万博協会に理解を示す人も多いかもしれない。一方で、ルールを守らない者がいるからと言って、ルールを変更することは許されないという考えを持つ人も多いだろう。

契機となった東京オリンピック

タバコは麻薬類と違って禁止ではなく、規制の対象だ。税金も高い。580円の紙巻たばこで、たばこ税は国税、地方税あわせて304円ほどになり、負担割合は52.6%だ。これに消費税もかかる。年間の税収は概ね2兆円で推移している。

喫煙者からすると、こんなに税金を払っているのだから禁煙を目指すのではなく、喫煙所くらいしっかり整備しろと言いたいのかもしれない。しかし、一方で厚労省の研究班や国立がん研究センターは喫煙による社会的損失を4兆円~5.6兆円と推定しており、喫煙は社会的な経済損失であるとしている。この立場からすれば、不便であるとか、隠れて喫煙する者が後を絶たないからと言って場内禁煙の理念を捨てることは本末転倒に映る。