トヨタ自動車が15歳以上の企業内教育を行う「トヨタ工業学園」では、専門的な座学、実習とは別に「講話」という授業がある。どんなことを教えるのか。卒業生としてトヨタで働く難波泰行さんに、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。

※本稿は、野地秩嘉『豊田章男が一番大事にする「トヨタの人づくり」 トヨタ工業学園の全貌』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

トヨタ工業学園出身で、R-フロンティア部(産業用ロボットの開発)の難波泰行さん
画像提供=トヨタ自動車
トヨタ工業学園出身で、R-フロンティア部(産業用ロボットの開発)の難波泰行さん

薬剤運搬用ロボットをつくる

難波泰行が働いているのはR-フロンティア部。産業用ロボットの開発部署だ。未来創生センターのひとつである。未来創生センターができたのは2016年。トヨタ自動車のなかにある先端研究部署で、パートナーロボット、ライフサイエンス、数理・データサイエンスを研究する部署などが集まっている。『人の活動を支え、人と共生する』ことを掲げて、身体の不自由な人、高齢者を支援する「パートナーロボット」の研究に取り組んでいる。

さらに、研究の対象にロボットをコントロールするプラットフォーム技術、あるいは街のインフラ技術にまで拡大しようとしている。

難波の上司、渡辺はこう言っている。

「未来に役に立つことは何でもやろうが未来創生センターです。そして、やっていることは薬剤を運搬するロボット。トヨタ記念病院は2023年に生まれ変わったのですが、その際、導入していただいたのが私たちが開発した薬剤運搬のロボットです。従来、看護師さんが薬剤や検体を運んでいたのですが、我々としては看護師さんにはもっと患者さんに寄り添う時間を増やしていただこう、と。そこで薬剤運搬用ロボットをつくりました」

一日に11便から13便運ぶ労力を解決

「薬剤室から患者さんのところまで薬を届ける回数は一日に11便から13便もあったんです。それをロボットに変えました。ただ、ロボットが運ぶワゴンのなかに決められたオーダー通りに薬剤を投入するのは人間で、これは集中薬剤室でやってます。まだロボットにはできません。間違えたりすると大変です。ですが、いずれはできるようにしたい。

私たちはこのロボットを基礎と考えています。薬だけでなく、ワゴンにはいろいろなものを入れるようにできればいいと思っています。そうすれば病院だけではなく、たとえば飲食店でも使えるようになる」

薬剤運搬用ロボットはモノを届ける搬送車、つまりAGVだ。高岡工場に導入された無人搬送車と考え方は同じである。モノを運ぶ仕事は、自動車工場でも病院でも飲食店でもなくなることはない。特にサービス業では現場の人手不足が深刻だ。未来といわず、現在の仕事場では搬送はロボットがやることになりつつある。