部下の力を引き出すにはどうすべきか。明治大学文学部教授の齋藤孝さんは「大河ドラマ『べらぼう』で知られる蔦屋重三郎は、プロデューサーとして才能を引き出すことに長けていた。部下の強みや個性を見抜き、チームを組ませてみるのもいい」という――。

※本稿は、『座右の一行 ビジネスに効く「古典」の名言』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

書架から本を取り出す
写真=iStock.com/rai
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孫子にみる「優しいリーダーシップ」

時を越えて読み継がれる「古典」には、人を育てるためのヒントがあふれています。

ビジネスパーソンの間で人気が高い中国古典の一つが、『孫子』です。

今から2500年ほど前に書かれた兵法書で1972年に中国山東省で出土した竹簡本(竹の札に書かれた写本)の内容から、この書物が春秋時代の兵法家・孫武によるものであることが通説となりました。

紙が発明される以前のはるか昔に記されたものが、時を超えて現代人に多大な影響を与えているのだからすごいことです。

ビジネスは戦いの場であり、リーダーは常に勝つためのヒントを得たいと考えています。しかも『孫子』に書かれているのは、現代のビジネスシーンでも、そのまま通用するほど非常に具体的かつ合理的なアドバイスばかり。だから多くの人に読まれ続けているのでしょう。

部下のマネジメントに悩む上司には、こんな言葉が響くのではないでしょうか。

「卒を視ること嬰児の如し」

将軍が兵士たちに注ぐまなざしは、可愛い赤ん坊に対するようなものであるべきだ。そんな意味です。

だからこそ、いざというときに兵士たちは戦場で将軍と生死を共にしようとするのだと『孫子』では説いています。

リーダーが部下の心を掴むには、普段から優しさと愛情を示すことが大事というわけです。

力を伸ばしたくば「死地」に追いやれ

とはいえ、上司が優しいだけだと甘えが生まれ、部下たちの能力が伸びない可能性があります。そこで『孫子』では、こんなことも言っています。

「死地に陥れて、しかる後に生く」

兵士たちは、もう死ぬしかないというほどの窮地に突き落とされて、初めて生き延びる。つまり、人間は追い詰められるとようやく頑張り出すから、部下たちに力を発揮させるには、あえて厳しい状況に放り込みなさいということ。

現代では「死地」というわけにはいきませんが、上手な試練の設定はできます。

愛情と試練の両方が必要というのは、職場の上司・部下の関係に当てはめても、非常に納得がいく現実的なアドバイスではないでしょうか。

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