部下の行動を改善させたいときはどのような声掛けがよいのか。行動科学マネジメント研究所所長の石田淳さんは「焦点を当てるのを、その人の人格ではなく行動にすること。そして『叱る』と『ほめる』をセットにしてこそ、相手の行動は改善されていく」という――。

※本稿は、石田淳『【新版】教える技術 行動科学を使ってできる人が育つ!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

「怒り」をぶつけても何も解決しない

「怒る」と「叱る」の違いは何か?

怒りというのは、“自分が掲げている目標と現状との間に大きなギャップがあり、そのギャップを埋めるための打ち手が見つからないときに抱える感情”だと、以前有名な哲学者の本で読んだことがあります。

つまり、人はうまくいっているときは怒らないということです。“あるべき姿はこうなのに、この現状はいったい何なのか?”というときに怒るのです。

怒りをぶつけたところで、何も解決しないことはみなさんも長年の経験上ご存じでしょう。

たとえば赤ちゃんに対して「あと2年で幼稚園だから、ハイハイなんてしていないで、さっさと歩きなさい!」と怒ることはありませんね。それどころか、ハイハイしていた子が、ほんの一瞬立ち上がっただけで「すごいぞ!」とほめたりします。

ところがなぜか、大人になると逆のことをしがちです。

もし赤ちゃんが怒られたら、そのあとどうなると思いますか? 歩くのをやめてしまうのです。なぜなら、また怒られると思うからです。

こうした現象を、行動分析学では“怒りが、行動を弱化した”と呼びます。

歩く赤ちゃん
写真=iStock.com/Ivanko_Brnjakovic
※写真はイメージです

「ほめる」効果

一方、ほめるとその行動が「強化」され、その行動は増えます。

ですから、ある行動を増やしたければほめる。これが育成の大原則なのです。

それでも、思わず部下や後輩に怒りをぶつけてしまった場合は、「さっきは悪かった。目標と現状に対する認識や、そのギャップを埋めるための打ち手の分析が甘かった私のせいだ」などと怒った理由を説明できるといいでしょう。

一方の「叱る」は、相手の行動などを改善する必要があるとき、それを指摘あるいは要求する行為です。

本当に相手のことを考えているなら「叱る」こともときには必要ですが、その際にはいくつかの配慮が必要です。次項では、そのことについて解説しましょう。